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2012.01.08 (Sun)

陰陽ノ京 月風譚弐 雪逢の狼


陰陽ノ京 月風譚弐 雪逢の狼
(2010/8/25)
渡瀬草一郎

人に獣の心は分からず、
おそらく獣に人は分からない。
命の長さにある差の分だけ、
従う理が異なるのだろうと思う。

真白き獣は、それでも一人の男を選んだ。


【More・・・】

情を通わせ、絆をもつ上で、
言葉の有無はそれほど重要ではない。
人同士の関係では言葉が必要な場合は多々あるけれど、
少なくとも、古今東西人と獣の関係に目をやれば、
言葉なしには親愛の情を抱けないということはない。
人はそれほどには生き物として落ちぶれていないと思う。
では、人が獣の言葉を解したりその逆が成り立ったなら、
そこにあるはずの絆はどうなるのか、
わんにゃん翻訳機や翻訳こんにゃくの例を思い出しつつ、
白山と戌彦の関係を想像しながら考えた。
一人と一匹の間には最初から言葉があって、
絆はその上に作られたわけだから、
途中から翻訳が可能になるのとは場合が違うけれど、
浅ましい化け物になって言葉を失った戌彦の思いを、
白山がほとんど間を置かずに理解したように、
言葉の有無程度では揺るがないほどに強固な繋がりを、
人と獣の間で種を越えて作ることは可能なのかもしれない。
願わくば、彼らとは逆の場合でも、そうであってほしい。

獣じみた、などと表されている光榮だし、
今回は狼と盛大にじゃれ合ったりもしているけれど、
白山と楽しげに遊ぶ様子を見ていると、
獣っぽいというより、子供っぽいように思った。
白山と光榮の波長が合うのは、
光榮が獣に近いからではなく、
白山の方が人間に近い心をもっているからで、
両方の図体の大きさに目をつぶれば、
ほとんどガキんちょと犬が転げ回っているようなもの。
初回の衝突はまだ命のやり取りだったとしても、
実頼さんちでのあれは明らかに遊び、
あるいは、いわゆる拳で語る的な儀式のように見えた。
もしも白山にまだ先があって、
状況がそれを許容できるようなものであったなら、
狼は光榮の識神になる道もあったかもしれない。
白山ならば、戌彦を失った代わりとしてではなく、
ちゃんと対等な形で光榮とも付き合えたと思う。
まあ守護したりされたりの関係よりは、
たまにやり合う喧嘩友達の方が双方らしい気もする。

安倍晴明のビッグネームがあの狸で、
忠行の好色爺っぷり、保憲の苦労人気質等々のせいで、
彼らがこの時代のこの国の中枢で働いている、
超重要人物であることはついつい忘れがちだけれど、
今回保憲が息子の政治向きでない性質を慮ったり、
実頼との対面の際に距離を測ったりするのを見ていて、
保憲の気苦労と役人っぷりに感心するとともに、
妖の存在は良くも悪くもイレギュラーなんだなと思った。
たとえ魑魅魍魎跋扈しているらしい平安の都であっても、
国を動かす上で妖が表舞台に出ることは稀で、
基本的には人外の脅威は舞台裏の存在。
その舞台裏に働きかける力は確かに重宝されるけれど、
何があってもそれ以上の力はもてないのが、
陰陽寮というお役所なのだと思う。
光榮や晴明がそこで上に行くのが難しいのは、
本人たちが裏に収まっていようとしても、
舞台上の役者によって引っ張り出されてしまうからで、
保憲が危惧しているのはつまりはそういうことでしょう。
腹芸の問題だけなら仕込めばいい話だけど、
犬に愛されるななんて言うのは、難しいだろうなあ。

兼良の怪しさがどこからきているのか、
残念ながら今回では明らかにならなかった分、
シリーズが変わっても変わらない清良の清良っぷりに安心した。
自分には守りの一手しかないのがわかりきっているのに、
後輩のため、なんて理由で一度負けた相手に立ち向かうなんて、
今回一番頑張ったのは清良だと思う。
能力で劣って人望で兄に勝っている弟なんて、
兄の立場からしたら目障りに思っても仕方ないと思うのに、
そんな弟を愛おしむことができる兼良は、
どんな裏側をもっているにせよ、
清良の信頼を裏切るようなことはしない気がする。
獣で子供な光榮が父や師のために己を戒めるように、
清良は兼良の一つのくびきなのかもしれない。
保胤にとての時継、吉平にとっての貴年ほどには、
絶対に守らなければいけない相手という意識はないだろうけれど、
人も妖もなく、生の営み全部を嗤っているような男が、
それなりにでも「可愛い」と思うだけ、
やはり清良は特別なんだろうと思う。
それが徒になるような事態が訪れないことを祈っている。

貴年を守りたいのは分かるけれど、
鳥を飛ばした上であのセリフは吉平、失策だと思う。
怪我が治ったら、貴年は二三度頬を張ってやっていい。

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