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2012.01.18 (Wed)

妖怪アパートの幽雅な日常⑥


妖怪アパートの幽雅な日常6
(2011/7/15)
香月日輪

どれほど強い願いも、
願うだけでは無力だ。
それは何一つ現実に作用しない。

ただ、肉体を失ったあとならば、
願いは力になり得る、のかもしれない。
ときには人を殺せるほどの。

そのとき、願いは呪いになる。


【More・・・】

憧れ、というのは一体どういう感情なのだろう。
たとえば格好良い先輩に憧れる、という場合、
それは尊敬の念か、
あるいは恋愛感情と紙一重な気がするし、
自分からは遠いスターのような他人に憧れる、と言うのなら、
それは崇拝やときには妬みに近い。
近い、けれども多分違うものなのだろうと思う。
そのまだどこにも偏らない純粋な好意を憧れと呼ぶなら、
童の心と書くのにも頷ける。
千晶先生は、男女問わず憧れられている。
夕士たちの年代の頃を思い出してみると、
確かに学年に一人くらいは、
クラスや教科の垣根を越えて人気のある先生がいた。
そしておそらくそういう先生は、
集団の中心にいる生徒にとっても隅にいる生徒にとっても、
平等に力になってくれる本当に有能な教師、だったのだと思う。
毎日顔を合わせている子供たちの目を騙して、
人気だけを集めるなんてことは不可能に近いのだから。
でも人気がある分だけ、その人に近づけない生徒はやはりいて、
その距離が、憧れを憎悪や嫌悪に偏らせてしまうことはある。
常に毛を逆立てている青木先生のシンパの子達の気持ちが、
痛いほどよく分かった。

連泊ぶっ通しでスキー学習をやる高校なんて、
今時いくらもないような気がするけれど、
夕士がアパートの外で高校生をやっていると、
微笑ましい一方で少し不安にもなる。
人間関係やら悪霊関係やらがのし掛かってきて、
外にいる夕士は日々安穏としてはいられない。
というより、アパートの中の世界が、
あまりに洗練されて有意義過ぎる人・もので一杯だから、
外の世界が雑多で無意味なものだらけに見えるのか。
でも夕士が生きていく世界は、
何をどうしたって混沌とした感情うずまくそちら側で、
今回の最後で秋音ちゃんがアパートを出たように、
やがて夕士にもその日がくる。
すべてを血肉に、と思っているような少年が、
アパートで純粋培養されてふやけることはないだろうけれど、
それでも夕士はもっとぐちゃぐちゃで無軌道で、
苦い思い出にしかならないような経験や思いを重ねるべきだと思う。
いくら正しくても、それは違うだろう、と断定してしまう前に、
クラスの人間関係に頭を悩ませたり、
未熟で思春期まっただ中の級友に傷つけられたりしてみればいい。
そうやってしか血肉にならないものもあるんじゃないか、と
夕士少年に待ったをかけたくなった。

今回ホテルにいた女の子の幽霊は、
先生に裏切られて・・・というくだりだけ聞けば、
どこのホテルにでもありそうなお話だけれど、
三人を「引っ張った」ということを踏まえて、
彼女に夕士と千晶先生が相対する場面を読むと、
不覚にもぞっとした。怖かった。
アパートにいるたくさんのこの世の者ではない存在の、
その基本的な無害さにすっかり馴らされてしまっていた。
クリの母親の例もあるにはあったけれど、
思いの残滓のような彼らは基本的にはこちら側には影響できない。
でもセーラー服の彼女には、それができる。
自分が失ってしまったもの、
もはや二度と取り戻せないものを持つ人間に対して、
ほとんど無差別に悪意をもって害をなすことができる。
それができない者たちもいる一方で、
彼女のようにいとも簡単に命まで奪える者もいて、
もしもその差が思いや未練の強さによるのなら、
少女はどれほどの思いで「全部あげた」のだろうと思う。
彼女の憧れが流れ着いた先があまりに悲しい。

アパートでの日々は相変わらずのようで、
修行と不思議体験と美味しいご飯のおかげで、
同年代の少年少女に比して、
夕士の健康レベルは大変なことになっている気がする。
だからといって魔道書マスターとしての力の方も、
右肩上がりになるわけではないあたりが、
このシリーズの美点だなあと毎回思う。
超人・長谷と堅実高校生・夕士の間に、
そのうち距離ができてしまうのではないかと、
今までは若干不安に思ったりもしていたけれど、
今回長谷家の事情が少し明らかになって、
長谷も色々なことがままならない一人の17才なんだなと思った。
早くに両親を亡くした夕士にしたら、
家族や親戚の繋がりが濃すぎるがために、
息苦しくなっている長谷の苦労は羨んでいいものだし、
長谷にしても逆の立場からそう思ってもおかしくないけれど、
夕士も長谷もそんなこと多分欠片も思わない。
思ってしまうこちらが恥ずかしくなってくる。

あえて断言すれば、
田代はとても正しい目をもっている。

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