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2012.01.29 (Sun)

偽物語(下)


偽物語 下
(2009/6/11)
西尾維新

偽物であることを責めるなら、
責める者は本物でなくては、
何かの本物ではなく、
本物の何かでなくてはならない。

正義の味方を非難できるのは、
その兄ではなく、詐欺師なのかもしれない。


【More・・・】

自己同一性というものがある。
おそらくは英語からの訳語として生まれた言葉なので、
日本語として見るとどうも変な感じがする。
まあ要は、己が己だと確信すること、その論拠、であるらしい。
アイデンティティという言葉はすでに日本語化しているから、
アイデンティティに関わるとか、それが揺らぐとか、
分かったような風に使ってしまうけれど、
実際のところ、それが何なのか、自分は分かってないと思う。
己が己だと確信すること、なんて
己を疑わない限りは、考えるまでもない当然のことで、
アイデンティティを外部を拠り所に定義すること自体が、
己に対する疑いの表れである気がする。
もしも自己同一性というものが、
それに対する疑いや不安を前提にして生まれるのなら、
本当は何者なのか、という問いは、
自分に向けた時にしか意味を成さないのかもしれない。
兄は兄で、妹は妹で、友は友で、
そこには本当も嘘もない。ただそうだというだけ。
だから暦兄ちゃんの確信は至極当然のもの、
阿良々木月火が本当は何者なのかを悩むべきは君じゃない。

一応上下巻構成ではあるけれど、
内容的には完全に分離している感がある。
いや内容というより、キャラの外見および内面的に、か。
この町で流行っているのかと思いたくなるくらい、
あっちでもこっちでも断髪が行われていて、
活字だから関係ないと言えば関係ないけれども、
化物語アニメの外見で脳内進行している関係上、
若干混乱してしまった部分もある。
まあ趣味丸出しで言えば短い方が好みだし、
シャギー入りの前髪とかざんばらな後ろ髪とか、
想像するだに愉しいので、アニメ楽しみではある。
ただ内面的な変化、つまりはキャラクター性の変化も大きくて、
下では登場しなかったけれど、
「普通」になったらしい彼女が気になって仕方ない。
神原にしても大分落ち着いてきていて、
もちろんそれぞれの背景と事情を鑑みれば、
そうである方が彼女たちにとって良いんだろうけれど、
でも寂しいような気もしてしまう非人間。
ガハラさんの毒を浴びたい。

嘘がばれないために一番良いのは、
嘘をつかないことか、真っ赤な嘘をつくことで、
それらの大前提となるのが嘘つきだと思われないこと。
なんていう風に考えていたのだけれど、
本物の詐欺師・貝木泥舟という男を見ていると、
これが本物の嘘つきか、という気分になる。
嘘つきだからといって騙すことに長けるわけでも、
詐欺師だからといって嘘を吐くわけでもない辺り、
少なくともそう思い込ませてしまう辺りに、
この男の騙しのテクニックがあるのだろうなと思う。
取れるところから取る、というセリフだけなら、
かの無免許天才外科医と同じだし、
どちらも非合法である点でも似ているのだけれど、
意味合いというか精神性が真逆なのに笑ってしまう。
うがった見方をすれば、
善なるフリをして詐欺を働くという悪で善性を隠す、という
七面倒くさい露悪趣味的手法をとっているのかもしれない。
忍野だってお金は取っていたわけだし。
ドーナツをもぐもぐする詐欺師にすっかりほだされてしまった。

上を読んだとき、
姉妹の正義は合致していないと思ったけれど、
その辺の自覚は妹の方にもあったようで、
月火ちゃんは感情を持てあましてヒステリックになりがちな一方で、
年齢のわりに、ちゃんと自分を分かっているのかもと思う。
自分には確とした理念がないと知っているなんて、
14才を子供扱いしたい気持ちから言えば、甚だ悲しい告白だし、
あるいは影響の受けやすさという性質の背後に、
鳥の影を見るのは簡単なことで、
影縫さんからしたら、だからそれは人じゃないとなる。
上半身を吹っ飛ばされて一瞬で回復する存在なんて、
もちろん人ではないのだけれど、
阿良々木兄がそれを知った上で確信し、
火燐ちゃんがそれを知らずに即答するということだけで、
阿良々木月火の人間証明としては十分である気がする。
たとえ月火ちゃんが鳥のことを知って、
それまでに積み上げてきた自己に疑いを抱いたとしても、
兄と姉の二人が否と、あるいは是と力強く言うことは、
きっと彼女の強力の足場になる。
やはり、ファイヤーシスターズは偽物じゃない。

妹だからドキドキしたりしないとか言いながら、
火燐ちゃんの口内を散々蹂躙して鼻息荒げるとか、
ダメ兄貴もここに極まれり、だなあ。
火燐ちゃんの将来が本気で心配である。

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