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2012.02.09 (Thu)

トロンプルイユの星


トロンプルイユの星
(2011/2/25)
米田夕歌里

大人しい子羊のまま、
迷い、そのたびに導かれ、
弱く鳴き、やがて死ねば、
彼は満足するのか。

彼が手を伸ばしてきたら、
噛みついて逃げだそう。
たとえその先が別の放牧地でしかなくても。


【More・・・】

神を信じますか、と問われると、
彼の何を?と返したくなる。
存在を、ならば、信じていない。
少なくとも名前や姿のあるものは。
御業を、ならば、信じている。
人が関知できない領域で起こる現象をそう呼ぶならば。
救済やら何やらならば、信じていない。
偶然が作用しない限り、
世界の方は人を救ってくれないと思う。
なんて、まあ要するに、
様づけで呼ばなければならないような実在の彼など、
端から認めていないということ。
だから、辻褄を合わせるためだけに、
人の意思を無視して世界を改変する力の横暴さには、
生理的に嫌悪感を覚えた。
そしてその分だけ、抗うサトミを心から応援した。
勝てないことはほとんど最初から分かっていたけれど。

読んでる間中、特に終盤サトミが決意する段で、
いつか猫になる日まで」のことを思い出した。
「トロンプ・・・」には宇宙船も少し壊れた若者達も出てこないけれど、
唐突に変なもの(現象)に巻き込まれて、
結果、世界の理みたいなものに戦いを挑むという点では、
二つのお話は似ているかもしれない。
両者ともおそらく負けたという点でも。
そもそも人の力でどうにかなるようでは、
理を名乗るのはちゃんちゃら可笑しいので、
その手の戦いで人側が勝てる見込みは初めからない。
それでも、「いつか・・・」の若者達も、
特別な力をもたないサトミも、
意思だけを武器にして戦いを挑んだ。
そこには若者らしい反骨精神や、
サトミの場合は恋の力も働いていたけれど、
完膚無きまでに負けることが分かっていながら、
理に否と言う姿はどちらも美しかった。

サトミはいわば現象に巻き込まれた側で、
中心にいるのは久坂さんなのだと、
途中までは思っていたのだけれど、
久坂さんが消された、正確には動かされた段階で、
彼もまた巻き込まれた人間だったんだなと思った。
巻き込まれた、というよりは、
網からこぼれ落ちていた、という感じか。
サトミが愕然としているように、
おそらくいつでも「それ」は仕事をしていて、
本来人には気づくことができないんでしょう。
ただ理は、言い換えれば神は、
一分の隙もない仕組みをまだ構築できていない。
だから久坂さんやサトミのように気がつく者がいる。
遠野という男の仕事は人を適宜動かすことと、
二人のように気づいた者を見つけては、消すことなのだと思う。
久坂さんはサトミが消されることを恐れていたけれど、
多分久坂さんはサトミが気づいたから消された。
小さな穴より大きな穴の方が見つかりやすい、ということなんでしょう。
ぬかりなくぬかりを繕ってくる手腕が怖い。

結果的にサトミは負けたわけだけれど、
気づく者がいるという以外にも、
たとえばデジャブという形で記憶が残ることや、
サトミが石川くんに、久坂さんがサトミに再会したように、
移動後の動きは理の制御下にないことなど、
この仕組みには綻びがあって、
それがいつか誰かが勝つ取っかかりになればいいと思う。
久坂さんが過ごしてきた時間とその喪失の重さを思うと、
そういう希望でも持たなければ、
この終わりはあまりにやるせない。
久坂さんもサトミももはや周囲との齟齬や、
何より喪失の痛みに苦しむことはないのだから、
これはこれであるべき終わりなのかもしれないけれど、
今手の中にあるものを失いたくないと、
必死に力を込めていた二人からその思いさえ奪っておいて、
これで一件落着みたいな顔をしているだろう神の事を考えると、
なんだかもう単純に腹が立ので、
いつかきっと誰かがお前に勝つ、と
他人任せに鼻息を荒くしておく。

カラフルでキラキラな表紙のくせに、
なかなかどうして苦い後味だった。

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