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2012.02.17 (Fri)

トムは真夜中の庭で


トムは真夜中の庭で
(2000/6/16)
フィリパ・ピアス

美しい時間は永遠にできる。
人が本当にそう望むなら、
時はいくらでも待ってくれるだろう。

待ってくれないのは、
待てないのは、
いつも人の側、その心と体。

【More・・・】

遊んでくれる相手がいなくて、
どこかへ行くことを禁じられても、
子供は自分で遊び相手と遊び場を見つける。
お人形とお話を始める子もいるだろうし、
自分にしか見えない友達を作る子もいる。
端からそれがどんな風に見えていようと、
彼らはそれで何も不足するところがないのだと思う。
だって彼らは本当に友達なのだから。
でも、現実の友達と違うのは、
彼らは決して自分と一緒に成長してはくれないこと。
置いて行かれることはなくても、
いつか必ず自分が彼らを置いて行かなくてはならない。
ハティにとってのトムはまさしくそういう種類の友達で、
彼女がもう自分を見ていないと気づいたときのトムが、
その痛みに身を震わせるのも分かるけれど、
トムが薄くなっていると気づいたハティの悲しみは、
それを上回って想像するに余りある。
ハティの側から見た物語の残酷さといったらない。

年上の子たちの仲間に入れて貰えずに、
庭を自分の王国に見立てて一人遊ぶハティの気持ちは、
経験的に痛いくらいよく分かった。
トムの側から見れば「毎晩」のことでも、
ハティの側からすると、
何ヶ月も間隔の空くことが判明してからは尚更、
トムが来ない間のこの子の心中を考えて、
一瞬も無駄にできないというように遊ぶハティが悲しく見えた。
彼女が成長し、外の世界を見るようになるにつれて、
トムの姿が薄くなっていくことによって、
ハティはこの少年の存在が自分の心に依っていることを、
強く確信していったんじゃないかと思う。
それはつまりトムが実在の存在でも幽霊でさえもなく、
自分の寂しさが作り出した幻想だということで、
スケートで遠出をした日の彼女は、
すでに小さな自分のその寂しさを、
客観的に愛おむことができるくらいには、
大人になっていたのかもしれない。
それは多分、喜ぶべきことなのだと思う。

ハティが子供から大人になる過程の大事な時間を、
トムという少年を支えに過ごしたのに対して、
トムにとってはあくまである夏休みの数週間の出来事。
その辺りに庭で二人が過ごす時間の重みに違いがある、
ような気があのスケートの日まではしていた。
トムは簡単に「時間」と「永遠」を交換しようとしているけれど、
それはこの子にはまだ「時間」の厳格さも、
「永遠」が意味するところも分かっていないからで、
その点で、年齢を別にしてトムはハティより確かに子供だった。
でも、塔の上でピーターを介して、
トムは「時間」が自分の手に負えないものであること、
留め「永遠」にすべき瞬間はすでに過ぎ去ってしまったことを、
直感的に悟ってしまったのだと思う。
そのことを認めたくない気持ちも金曜日の夜に挫かれて、
あの晩、トムは完璧にハティという少女を失った。
だからこそあそこまで取り乱さずにはいられなかったんでしょう。
トムにとってもハティと同じように、
子供時代を終える、その始まりの時間だったのだと思う。
馬車での帰り道、二人は確かに等しい時間を生きていた。

中庭に通じるドアが真夜中だけ過去につながる、なんて
紛う方なきファンタジーなのだけれど、
邸宅、大時計、ハティ、そして夢と時間等々、
その仕組みと仕掛けは見事に矛盾なく組まれていて、
特に無秩序にトムを過去のある点に送っているように見えたドアが、
何を背景にして動作していたのか、という点は、
なんとも精緻で美しい仕掛けがあって感嘆した。
金曜日の夜に庭もハティも失ったトムが、
午前中の数時間で得たものの貴重さ、
バーソロミュー夫人が長い時を越えて再び手にしたものが、
遡って彼女の過去を組み直す瞬間の鮮烈さ、
庭での輝かしい時間とその終わりを踏まえると、
26・27章の行間からあふれ出てくるものは、
幼い二人の時間の描写に比して圧倒的だった。
終始冷静に何が起こったのかを語り合っていた二人が、
再会を約束してさよならをした後に、
トムが再び階段を駆け上がり抱擁する瞬間、
どれほどの思いがトムと彼女の中にあったのかを見た気がした。

トムが見えるかどうかが、
ハティの心に依っているのなら、
アベルだけが幼い彼女に触れていたのだと思う。

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テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


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Comment

私も読んだんですけど、感動しました!!

感想文もすごくてびっくりです!!!!!!v-12
 |  2014年01月02日(木) 13:38 |  URL |  【コメント編集】

●Re: タイトルなし

コメントありがとうございます。
少年少女向けのようで大人にこそ突き刺さるお話でした。
あこん |  2014年01月03日(金) 02:46 |  URL |  【コメント編集】

初めまして。
小学4年頃読み、〇十年後の今も心に残っています。作中トムは凍結したテムズ川でスケートをするのでしたっけ?十何年か前にテムズ川が凍結したニュースを耳にした折にもこの作品を思い出しました。
jyakko |  2015年02月08日(日) 16:40 |  URL |  【コメント編集】

●Re: タイトルなし

コメントありがとうございます。
長く心に残る作品ですね。確か凍った川でスケートをする場面があったと思います。
以前北国で同じようにスケートをする人たちをみて私もこれはと思いました。
あこん |  2015年02月12日(木) 14:58 |  URL |  【コメント編集】

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