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2012.02.21 (Tue)

エレGY


エレGY
(2011/4/8)
泉和良

目の前にいる人間が、
本当に見ているものは何なのか、
怖くなるときは確かにある。

そんなときは、目玉を覗き込めばいい。
そこに写っている不安げな顔を、
彼は彼女は、見ている。


【More・・・】

顔を合わせないコミュニケーションは、
五感の中で最も得られる情報量が多いらしい、
視覚という要素を欠いているという点で、
確かにリアルコンタクトよりもごまかしが効く。
名前なんてものは言わずもがな、
年齢も性別も、趣味嗜好の類いも、
偽ろうと思えば簡単にできる。
ただ嘘はやはり嘘で、
たとえ表情や仕草からボロを出すことがなくても、
嘘の嘘くささは行間からも漏れ出るものだと思う。
本当の嘘つきは一朝一夕でなれるものじゃないし、
嘘で作るのがどんな像であれそれは変わらない。
問題になるのは現実の自分との距離だけ。
ジスカルドという名の虚像は、
その意味で決して理想像ではなく、
そのなりそこないでしかなかったのだと思う。
彼は良くも悪くも泉和良からそう遠い存在ではない以上、
理想を描けると思うこと自体が思い上がりに思えた。

生活的にも精神的にもギリギリの状態で、
どうにもならないと分かっている一手を打ってみたら、
女子高生が釣れてしまいましたどうしよう、という話で、
付き合うやら付き合わないやら、
理想と現実の落差に気づかれるのが怖いやら、
はては創作とは何ぞやという葛藤やら、
色々に悩みまくって、尚更精神的に不安定になって、
挙げ句合法的なクスリに逃げ込んで、
とまあ迷走しまくる氏を眺めながら、
悩むのは好きにしたらいいけど、
とりあえず手を出したら淫行だよなあと思っていた。
エレGYは高校三年生らしいので、
そう待たずに法には触れなくなるし、
そもそも始まりがパンツなのだから今さらなのかもしれないが、
傷だらけの手首のことよりも、
じすがその辺のことについて彼女を心配しないのが気になった。

じすはひたすらに虚像と現実の差を気にしていて、
彼女が完全にそれに気づいてしまうのを恐れているけれど、
もしもジスカルドという像が、
エレGYの中で完全な理想として存在しているのなら、
最初に会った時点で関係は終点になっていたはずだと思う。
本人が言っている通り、
泉和良という男は女子高生の目を引く要素が皆無で、
だからと言って言動でそれをカバーしようともしていない。
何十時間も顔を突き合わせて話し、
また会いたいと何度も懇願されて、
それでも彼女が理想を見ているだけだと思うなんて、
じすは女子高生というものを馬鹿にし過ぎだと思う。
ネット上の人物像と現実が別物であることや、
故意に何者かを演じている人間がいることくらい、
十代の女の子だって、もちろんエレだって分かっている。
実際のところとは別の像を演じているのは、
何もネットに限ったことではないし、
いつまでも本名を自分から言わないエレGYだって同じ。
「ばーか」ってもっと言ってやればいい。

最初のメールの文面からして、
どこか分裂してしまっているようなものだったけれど、
じすに送られてくるメールのテンションだけ見ても、
彼女がかなり振れ幅の大きい不安定な精神状態なのが分かる。
じすと会ったことで「会って貰えない時間」が生まれて、
尚更平衡を失ってしまったのかもしれないし、
あるいは手首のことを考えれば、
それ以前からそんな状態だったのかもしれない。
いずれにせよ、本人が語るほどには、
じすのゲームは彼女を救っていなかったように見える。
でも、公園で彼女が歌ったとき、
精神状態の改善という形ではなく、
何かを創り出すための種を胸の中にもつという形で、
じすがしてきたことは確かに彼女の一部になっていて、
それは救いと言い換えることができるのかもしれないと思った。
手首を切って自分の生を確かめなくても、
何であれ創り出すことができるというそのこと自体が、
何かにつけて自分を低く見る彼女が、
わずかでも自分を肯定する端緒になっているのなら、
ジスカルドは意味ある存在だったんでしょう。

折角安定剤の代わりになるのだから、
泉和良は常に手の届くところに
白黒の石を置いておくべきだと思う。

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