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2012.02.24 (Fri)

紙魚家崩壊 九つの謎


紙魚家崩壊 九つの謎
(2006/3/17)
北村薫

何が、いつ、なぜ、どうやって?
分からない、分からない、
不思議だ、変だ、どうかしてる。

謎だ。

そのセリフを待っていた。
「探偵」さん出番です。


【More・・・】

世の中に不思議なことはある。
これは決して黒衣の男に反発するわけではなく、
より正確に言えば、不思議な状態のこと、はある。
不思議、不可解、奇妙etc.
理解を超えた事象を形容する言葉はたくさんあって、
もちろんどんな事象であれ起こった以上、
それを説明し得る理屈は働いているはずなのだから、
これはただ単に観測者にそれが分からないというだけ。
理解に至る時が来ようと来まいと、
そんなものは事象そのものには関係がない、
よって不思議な「こと」は存在せず、
不思議に「思われること」が在るだけ、だと思う。
そう考えると、理屈が分からないという点において、
不思議と親戚のような位置にいる「謎」とは、
理解されんとする不思議なのだな、と
「謎」に挑む以外の選択肢など、
端からないように振る舞う「探偵」役を見ていて思った。
分からない、けれども、分かるはずだ、と思う彼らは、
つまるところやたら果敢なだけの一観測者なのだと思う。

九つの謎とは銘打ってあるものの、
いわゆるミステリ的に事件と探偵と犯人のいるものは、
名探偵の助手が語りの二篇と、
カチカチ山を保険金殺人もどきに仕上げた一篇だけで、
残りは、謎はあっても事件はない、
あるいは事件はあっても謎はない、という感じ、
探偵や犯人もいたりいなかったりだったので、
あまりミステリ短編集を読んだという気はしなかった。
しかも三拍子そろったその三篇にしても、
犯人に悪意的なものやどろどろした動機がなく、
ふとすると事件の形を見失ってしまった。
いや、人を殺しておいて悪意がないとは言えないか。
でも少なくとも紙魚家の主は、
妻を殺したくて殺したというよりは、
理詰めで現状の打開策を探した結果が、
単に殺人だったというだけのように見えた。
案に殺人が挙がって採用する時点でどうかはしているが。

ミステリの中で生きているらしい名探偵の活躍よりも、
右手と左手が恋をしているという助手が気になった。
司令塔である脳から体の一部が分離して、
個別の意思をもったりしたら、
それだけでも厄介極まりないように思うのに、
それ同士が惚れた腫れたの関係なんて、
勝手にやってろと言えない分性質が悪過ぎる。
生まれたときから一緒どころか、
細胞分裂の段階から一緒なのだから、
それは恋人ではなく兄弟だろうと思うのだけれど、
どうやら二人(二手?)的には幼馴染扱いらしい。
自分の手同士がいちゃいちゃしているのはまだいいとして、
他人の手との接触はすごく気を使う必要がありそう。
別れたら別れたで尚更面倒だろうなあ。
精々死ぬまで仲睦まじくいて貰わなければ。妄想。

「おにぎり、ぎりぎり」や「サイコロ、コロコロ」は
陰惨さのかけらもなく温かな話で、
おにぎりやサイコロの謎と、
千春さん自身の可愛さが相まってほっとする味わいだった。
悪意も動機もない点では先の三篇と同じだけれど、
言ってしまえば、この話には謎さえもない。
解く解かないを別にしても、
そもそも不思議な事象の存在感さえ希薄で、
でもサイコロでは千春さんが、
おにぎりでは子供のような植物学者が謎を見つける。
それを謎だと思いさえしなければ、
多分解かれるべき不思議など存在しなかったのだと思う。
観測者と観測されるものについての猫の命題のように、
謎もまた観測者がそれを謎と認定して初めて謎になるのかもしれない。
なんて、そんなややこしいことを考えなくても、
おにぎりは美味しく食べられるだろうと思う人間は、
おそらく探偵にはなれないんでしょう。

通勤電車にまつわる「日常」や、
自分しか知らない闇の中に浮かぶ蝶は、
はっとするほど甘美で既視的な像だった。

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