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2012.02.29 (Wed)

ベッドルームで群論を 数学的思考の愉しみ方


ベッドルームで群論を 数学的思考の愉しみ方
(2010/9/11)
ブライアン・ヘイズ

ランダムとは何なのか。
同じとはどういうことなのか。
そして、
快適なマットレスで眠る術はあるのか。

数学の砂場で遊んでいるうちに、
きっと答えは掘り起こされる。


【More・・・】

数学における定義と定理の違いについて、
ある教師は、前者を人が都合に合わせて決めたもの、
後者をそれに基づいて導き出された法則、と説明した。
つまり定理の前に定義があるということで、
宇宙を構成する理の前提に人がいると言っているような、
そんな傲慢を感じて、顔をしかめた覚えがある。
都合に合わせて、と言うのなら、
それが揺らいでしまえば、定理もまた揺らぐ。
そんなものを我が物顔で振り回して喜んでいるなんて、
数学者という奴らはなんて厚顔無恥なんだ、とか
今から考えると痛々しいことこの上ないことを考えていた。
ごく身近な疑問を暇に任せて解くために、
数学を玩具のように扱う書き手の、
というよりたまに登場する知人の数学関係者全体の、
その子供じみた楽しげな様子を見ていると、
彼らには、そんな傲慢など全くないのだと思った。
むしろ彼らは、大いなる理を記述するため、
理解するための手段として、「定義」を導入した。
それは彼らの定義を無遠慮に使う一学生など、
足元にも及ばないほど謙虚な姿勢だった。

まず「群論」とは何なのかからして分からないので、
その定義から始めてくれて大変助かった。
ほかの遺伝暗号や命名にまつわる章でも、
基本的にはその分野に触れたことのない人のために、
かなり議論をかみ砕いて書いてくれているのは感じる。
ただ、扱う命題を理解する以前に必要な、
基本的な知識まで説明する余裕はなかったようで、
幸いにして多少の知識がある分野は良かったものの、
プログラミングやそこで使われる言語に関係する、
「一番簡単な難問」と「第三の基数」の章は、
何度同じ文章を読み返してもちゃんと理解できなかった。
「一番簡単な難問」の章で書き手が何度か言っているように、
問題の問題になっている部分のどこが難しいのか、
そこからして見えないのだから、
それ以上思考を進めようもなくなるのは道理で、
ほとんど思考を停止したまま、
どうやらプログラミングで動く機械というやつを、
人が意図する通りに動かすのは大変なんだな、と
悔しさに歯がみしつつ思うのがやっとだった。

とはいえその二つの章以外は、
マットレス返しの問題から遺伝子、命名、歯車など
とても具体的な題材を取っかかりにしてくれたので、
大方の部分は理解できたと思う。
「長く使える時計」だけは、やや思想的な気がするけれど、
他の章についてはもうただ単純に、
数学や各種のシュミレーションを使って遊んでいる感じで、
これはどういうことだ?と疑問に思ったままに、
論文を漁り、各分野の現役の学者たちに問い合わせ、
さらに「後から考えてみると」の節までわざわざ用意して、
読者からの意見にまでを思考の材料に加えて、
この人は頭を使うことが本当に楽しいんだなと思った。
書き手はその分野の端っこに存在するある問題について、
つまみ食いをするように取り組んでいる一方で、
それを専門とする人間、つまりそれに人生を捧げた人間は、
歴史を通じて数多いたことを考えると、
数学という分野は先人の思考と仕事を直接的に土台にして、
後の人間がより高みを目指す性格が濃い分野なんだと思う。
派閥的なものも皆無ではないのだろうけれど、
今は亡き天才たちに次々肩車して貰っているような、
そんな想像をすると、もう彼らに頭が上がらない。

マットレスが一部だけへこむのが気になる感覚は、
ベッドの枠の上に布団を敷いて寝ている人間には、
経験的にはよく分からないのだけれど、
それがどうやらその文化圏の人間共通の問題で、
マットレスの販売会社が色々と試行錯誤をし、
学者が問題を解決するための黄金律を探し、
一般の人が日々頭を悩ませてマットレスを返しているという、
その様子を思い浮かべながら読むと、
結論として黄金律が存在しないことが残念に思われた。
彼らは永遠に偏ってへこんだマットで寝るのか、と思うと
人類が誇る頭脳の敗北のような気分にもなる。
そう思ってしまったあとに、
このマットレス返しの問題を問題たらしめているいくつかの前提が、
そもそも簡単に覆せることを示されて、
完璧に乗せられていたことに気がついた。
多分この問題に取り組む数学者は全員、
前提をいじれば問題などそもそも存在しないことを知っている。
その上で、正N角形(Nは奇数)や円形のマットレスを考えて、
これでどうだ!と言い合っているのだから、
数学は玩具として抜群に有能なのだと思う。

ありとあらゆる暦を網羅して、
理論上は1万年時を示し続けるという時計。
「僕が動かしてみせるよ!」と言った少年の頭の中には、
一体どんな歯車が詰まっているのだろう。


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