2017年08月 / 07月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫09月

2012.03.29 (Thu)

一鬼夜行 花守り鬼


一鬼夜行 花守り鬼
(2012/3/6)
小松エメル

酒宴、しかも春の桜の下とくれば、
四方山話が一番の肴。

怪しい話も楽しい話も、
哀しい過去も息苦しい今も、
薄紅の花が夢にしてくれる。


【More・・・】

強さを腕っ節だけでは測れないように、
泣き虫が必ずしも弱いわけでもなく、
涙一つも見せないことが強さでもない。
腕力だけならば人と比べられるけれど、
心の強さを比べるなんてことは不可能だから、
結果、表出する感情によって測ることになって、
強くとも弱く、弱くとも強く、見える。
そういう誤解がおそらくいつも生まれている。
強い者が弱い猫をかぶる場合も、弱い者が強がる場合も、
揺れるその波のままに心を表に出さないことは、
つまりは無理をしているということ。
その、無理をどこまで突き通せるのか、という部分が、
一つの強さだという向きもあるし、
強く、あるいは、弱く、見せねばと思うことを、
優しさと捉えることも確かにできる。
でも、そんな無理は一度気づいてしまえば見ていられない。
それが近しく大切な者であればあるほど。
大切だと思う以上に大切に思われていることを、
深雪ちゃんは素直に自覚すべきで、
それ以上に兄は言葉で伝えるべきだと思う。

一冊目が小話を連ねた感じの長編で、
二冊目が多聞のいたずらを中心にしたまるごと長編。
前者の方が好みと言えば好みだったので、
今回は一冊目に戻った感じでとても楽しかった。
半ば引きこもりの店主にしては珍しく、
今回は終始野外でどたばたしているので、
馴染みの古道具屋つき物の怪連中は出番少なだったけれど、
桜の下でどんちゃん騒ぐ「あちらのモノ」たちの姿は、
人を喰うだの人間酒を作るだの言っていても
いつも以上に禍々しさの欠片もなく、
あっちだろうがこっちだろうが、
とりあえず飲めや唄えやな感じでほのぼのした。
多聞だけは登場するだけで場が不穏になるものの、
それは前回の件で喜蔵たちの側に警戒心があるからで、
今回の幻は本人の言葉の通り、確かに「作りが粗い」。
できぼしのことも含めてほとんど思惑通りにいっていない。
まあこの男にはそもそも明確な害意なんてなくて、
やっているのは趣味の悪いいたずらなんだと思う。
粗い分だけ趣味の悪さに拍車がかかるのだから手に負えない。

露悪趣味とかそういうものでは全くなく、
純然たる巡り合わせの結果として、
今回深雪ちゃんは多聞の遊びに助けられたように見えた。
多聞の、というよりは、できぼしの、なのか。
サトリあるいはサトラレでもない限り、
人が何を思っているかなんて分からないのだから、
深雪ちゃんを苛々させていたのは、
人と人の関係におけるごく普通の問題なのだろうけれど、
多分彼女を本当に悩ませていたのは、
言葉と態度の足らなさ過ぎる兄ではなく、
怒ったり弱音を吐いたりする自分では、
誰も必要としてくれないのではないか、という不安、
「芯の強い出来た娘」であること以外に、
自分の価値を認められないことなのだと思う。
牛鍋屋のおかみさんたちは、
娘のような彼女が強くあろうとしていることも分かっている。
でも深雪ちゃん自身が弱さを表に出すことに怯えがあって、
やっと出来た兄にそれをしていいのか、という迷いもある。
家族になるための手続きは明治の世も同じらしい。

綾子と飛縁魔、小春と深雪、喜蔵ともう一人の妹などの、
かなりシリアスで重要な話の間に、
どこぞの誰かさんによく似た爺にニヤつく高市の話や、
与太でしかないりつのお涙頂戴話、等々、
全部合わせた楽しさともの悲しさが、
春の桜の宴にふさわしくて上手いなあと思った。
人妖無関係に場の全員を攪乱させたものの正体として、
悪意ゼロの子供のような弱いものを置いたのも、
決闘や刃傷沙汰なんぞ論外、
争うだけ野暮な花の下という場を弁えている気がする。
わらわらと喜蔵を妖怪どもが追いかける場面でも、
彼らにしたらただの余興でしかないのもあるけれど、
前回淡いの道に行ったときとは全く違う牧歌的雰囲気で、
深雪ちゃんのお弁当で悶絶、とか
もう何この可愛い人外たち、と言った感じだった。
そういう目で見ると飛縁魔の意地の悪い物言いも、
ただのツンデリズムにしか思えないのだから、
全くもって花の下というのは良い場所で。
年一と言わず時節ごとに宴をやれば、
店主の引きこもり癖もどうにかなるかもしれない。

外側の似ていない兄妹は、
内側がうり二つだった。
全く困ったものだけれど、なんとも愛しい。

スポンサーサイト

テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


22:36  |  小松エメル  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://acon6960.blog40.fc2.com/tb.php/416-294e7ebf

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |