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2012.04.04 (Wed)

探偵はバーにいる


探偵はバーにいる
(1995/8)
東直己

人生のハイライトなんて、
演者本人にだって分からない。
まして観客や端役には、
舞台を見通すことさえできやしない。

だからこそ、せめて幕が下りるときは、
しっかと目に焼き付けたいと思う。
己ではなく、大事な人のそれを。


【More・・・】

最初から最後まで通して楽しめるのは、
活字で組まれたものか、
フィルムに焼き付けられたものだけで、
現実に展開しているほとんどの「物語」は、
自分のそれも含めて、
どこか一部分しか知ることしかできない。
それが始まりの部分であることは稀で、
大抵はどうということはない中途の部分、
あるいは、終わりの部分。
大切な誰かの物語をどんなに知りたいと思っても、
全部どころか、知りたいことを知ることさえ難しい。
正しく四六時中アルコールを体内に残留させている探偵は、
多分、依頼人が知りたいと思っているその誰かの物語を、
語るため、作るために、走り回っているのだと思う。
本人にその自覚はないのかもしれないけれど、そう見えた。
必ずしも過程や事実が依頼人に開示されないのは、
それが依頼人の求めではないから、であり、
「本当」を求めているのはむしろ探偵本人だから、だとしたら、
この男ほど他人の物語の終わりが辛い人間はいない。

関わった人間の数だけ事件が多面化するのは、
言うまでもない話ではあるけれど、
事件を別の切り口・視点から見れば、なんて
分かったようなことをまま言ってしまう。
そうと分かった上で性懲りもなく言えば、
一人の女子大生の失踪を足がかりにした事件は、
どこを切り取り、どこから見るからによって、
全く違った顔を見せる造りになっていて、
全体像を把握するために、
それぞれ違う顔を見ている人間の間を、
探偵がピンボールのように行き来する様は見ていて飽きなかった。
ただ、探偵以外の人間にとっては、
事件は自分が見ている一つの面以外の形で存在せず、
その意味で、探偵が描いた「事件」などどこにもないのだとも思う。
それはそうと、ノイズが多い情報の中から、
像を描くためにピースを拾い上げる探偵の手腕も、
その過程の頭の中をいちいち詳細に独白しないだけに、
アルコールとバカ騒ぎのどの隙間で考えているのか判然とせず、
そこがまたふいにある部分の絵が見えたときの快感を増大させていて、
つまりは探偵と一緒に北の歓楽街を歩くのが楽しかった。
ビール瓶で殴られるのにはご一緒したくないが。

工藤という男が殺されたことを一つの中心に見れば、
事件はそこに近い場所にいればいるほど単純で、
被害者にとって酷い言い方をすれば、
そこにはありきたりな衝動ともののはずみしかない。
でもそんなもので男が一人殺されたことよりも、
被害者の恋人という位置にいながら、
その女性が事件の中心からとても遠い場所にいることが、
なにより酷いことなのであるような気がした。
彼女の恋人、素敵な人だったという恋人は、
二人が思い合うその距離とは無関係に、
彼女の全く知らない場所で思いも寄らない理由で、
全く関わりのない女のために体を張って死んだわけで、
それを思うと、残された者の悲しみというやつは、
単に一緒に逝けなかったことだけではないのだと思う。
工藤というのが本当はどんな男だったのか、
誰の言葉を足がかりにしても分からないけれど、
「彼らしい」と言った彼女の言葉は多分本音ではない。
その死を彼らしいものとして傍に引き寄せたいがための、
ほとんど強がりのようなものだと思う。
三晩で切り上げられたことはむしろ幸いでしょう。

ミーハーな動機で手に取ったので、
探偵のビジュアルはほぼもじゃ泉さんになっているけれど、
要素が身近過ぎる高田は全くそうならなかった。
空手とかヒゲとかと住まいの性質を合わせると、
イコールの後に出てくるのはどうしたってヒグマ大学生。
足が長いらしいのでそれほどクマではないにしても、
やはりどう転んでもシュッとはしない。
まあ今回は高田はそれほど活躍の場面もなく、
思惑なしでバカやれる探偵の愛すべき友人といったところ。
助手という趣は皆無だったので、
その辺は映画でのサービスだったか、
シリーズが進むとだんだん助手化していくのか。
肉体派の助手に守られなければならないほどには、
探偵は頭脳と人脈頼りという感じでもないので、
いっそ単なる楽しい友人兼アッシーで全くもって良いと思う。
いくら学部一暇とか言われる学科の院生でも、
そうそう自由な探偵業に付き合ってられもしないでしょう。
と、持たなくてもいい肩を持っておく。

ススキノという街は実際それほど広くない。
でも歓楽街の常として、
多分思うよりも底が深いのだろうなと思った。

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