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2012.04.08 (Sun)

青に捧げる悪夢


青に捧げる悪夢
(2005/3)
恩田陸、近藤史恵他

死や悪意や自身の醜さや、
とにかく酷いものに満ちた閉鎖系。
出口の存在を忘れ踊る人々。

救援は届かない。
外への足がかりは見つからない。
悪夢が彼らに飽きるまで。


【More・・・】

現実から逃げ出す手段として、
しばしば夢の世界は使われる。
目を閉じて意識を投げ出すことで、
誰でも別世界に行けるのだから、
これほど簡単な逃避もない。
けれど往々にして逃避というものが、
建設的であるわけもないののご多分に漏れず、
夢の世界は残酷なものだとと思う。
いつか覚めること、望んだ世界に行けないこと、
それらを脇にどけたとしても、
理屈というものが世界にはびこっているという点で、
結局逃げ出したはずの現実と何も変わらない。
夢の世界を奇妙に思うのは夢から覚めたときで、
ならば、現実にどうしようもなく不条理を感じたとき、
人はもうそこからはみ出し始めているのかもしれない。
現実と全くフラットに接続した、
あるいは二重写しの夢を見た人々には、
おそらく二つの世界の境目は見えていなかった。
だから望むと望まぬとに関わらず、越えてしまった。
境がなかったのではなく、単に見えなかったのだと思いたい。

複数の作家のアンソロジー的な短編集は、
タイトルづけが難しいよなあ、とか
別に編集側の人間でもないのにいつも思うのだけれど、
この「青に捧げる悪夢」は秀逸だと思う。
どこをとっても何の具体性もないのに、
作家のラインナップと合わせて確かな期待を感じてしまう。
そして期待はいささかも裏切られなかった。
気味が悪くて、不条理で、狂気があって、
それでいて謎は謎として幻想でごまかさない真摯さ。
こういう本はどうやって編まれるのか知らないけれど、
旅立ち。卒業、十の話」のような明確なテーマを設定せずに、
これだけ色味に統一性があって、
かつ味わいが異なる十篇を揃えられれば、
アンソロジーとしては大成功の部類だと思う。
もちろん単純に作家それぞれの手腕が大きいにしても、
今回は編集のそれにも拍手を送りたくなった。

十人中六人までが覚えのある作家で、
この人ならこういう感じだろうという予想は大方そのまま、
お馴染みの空気感を十分に楽しめた。
乙一の「階段」は氏にしてはトリッキーさが抑えめ、
その分姉妹が両親と家を失うまでの叙情、
というか主に姉の感傷みたいなものが大盛りな感じで、
こういう短編も書くなら、もっと書いて欲しいなあ、とか、
ここ数年新刊を見かけない作家にやきもきを募らせたりもした。
それはそうと、暴君である父に怯えながら妹を思う姉の姿が、
どうにもやるせなくて、そこから連れ出してやりたくなった。
でも小林泰三「攫われて」や篠田真由美「ふたり遊び」も同様だけれど、
彼らの見ている悪夢はあくまで閉じた系で、
外部からの干渉を許さない場所で展開している。
だから読者など言わずもがな、物語の中の誰かでさえ、
同じ悪夢を見ている人間以外には、
彼らをどうにかすることなどできない。
誘拐による隔離や逃避場所としての「お城」と、
「家族」の枠組みが同じように不可侵の世界であるということが、
理解できる分だけエピローグの姉の感慨が沁みる。
壊れたまま閉じた世界で生き延びるのは容易いことじゃない。

初めての作家さんの中では、
瀬川ことび「ラベンダー・サマー」が抜群に良かった。
それぞれの要素を少しずつ持ちながら、
全体としてはホラーでもミステリーでもグロでもなく、
十篇の中では若干浮いている感じの話だけれど、
「夏の幻の少女」を撮ろうとしている少年たちが、
マジもんの彼岸の少女に出会い、
気づかれていることに気づかない少女の振るまいが、
結局本当に「夏の幻想」の香りを一人の中に残す、という
笑い話的雰囲気ながら結構凝った入れ子構造で、
最後までしっかり王道の切ない系ホラーをやる少女の哀れさと、
それを嬉々として利用する少年たちの俗っぽさが相まって、
楽しいやら悲しいやら、なんだか忙しかった。
結果的に幻想にあてられることになった晃司も、
だからといって呪い殺されるとか自ら狂うとか、
そいういうホラーな展開もなく、
ただ本当にひと夏の思い出として彼女は記憶される。
同じ現象に出会いながら映像に夢中の二人と、
目に見える彼女が本当だと思う晃司のすれ違いもまた、
夏の思い出にふさわしい気がする。上手いなあ。

一つの短編として完成しているからこそ、
アンソロジーの中にシリーズの一部を入れてくれるなと思う冒頭二篇。
読みたいシリーズがこれ以上増えるのは困る。

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