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2012.04.11 (Wed)

麦の海に沈む果実


麦の海に沈む果実
(2004/1/16)
恩田陸

閉じた箱の中で、子供たちは育つ。
餌は十分、天敵の脅威はなく、
隣りには確かに仲間がいる。

ときおり幾人かを連れ去る手を、
ただ見ずにいるだけで、
箱は永遠に壊れない。


【More・・・】

学校という場所は巣立ちのためにある。
外の世界で生きるのに不都合がないくらい、
十分に学び、力を蓄えるまで、
子供たちはそこに留め置かれる。
後ろからせっつかれるように出される仕組みは、
だから本来の学舎の形からは遠いのだろうけれど、
それでも背を押されて踏み出す先が、
底の見えない谷のようなこの学校よりは、
どれほど設備や教師陣がお粗末であっても、
学校としてまともなのかもしれない。
王国は、その閉鎖性もさることながら、
終始馬鹿げた饗宴をやっているような、
それでいて誰の笑いも乾いているような雰囲気が、
何より腐りきっているように思った。
子供たちの巣立ちを見送れない壊れた学舎など、
受け継がせる親もそれを望む子も歪んでいる。

学園で起きる全ての殺人事件は、
密室殺人なんかの不可能犯罪では全くない。
誰かが少年の背中にナイフを突き立てた。
誰かが少女を突き落とした。だから、死んだ。
起きたのはそれだけで、
その瞬間を目撃した人間がいないがために、
まるで生徒が間引かれているかのように思えるけれど、
実際のところ学園は絶海の孤島ではないし、
閉鎖空間での連続殺人につきものの、
殺害方法についての謎や殺人鬼の恐怖もない。
それでも一人死ぬ度に追い詰められた気分になるのは、
本当は全く閉じられてなどいない学園が、
入ったら二度と出てこられない絶望の城であるような、
そういう雰囲気作りに校長が成功しているからだと思う。
麗子の暴走や姉弟が起こした事件を考えると、
全部が彼の手の上というわけでもないんだろうけれど、
王の望みがその手を離れても動作し続ける「王国」なら、
まさしく望みは遂げられた。吐き気がする。

王国を運営する父子もその落とし胤たちも、
控えめに言って壊れていると思うけれど、
学園を成り立たせているのは、
結局のところ才能に浮かされた親や、
いなくなって欲しい子供を「墓場」に送る親が、
それぞれの望みのために出すお金で、
三代目を選ぶような話が出てくるまで、
この学校が水準を保って、むしろエスカレートさせて、
連綿と存在してきたことが何より、
忌むべきことであるような気がした。
自分がどちらなのか分からないと言っている理瀬は、
フタを開けてみれば、完璧な「養成所」組だった。
生徒の三つの分類「ゆりかご」「養成所」「墓場」は、
入る時点で一定度のふるいがある以上、
純粋な「ゆりかご」組はおらず、
つまるところ「将来を望まれる者」と「望まれない者」、
その二種類しかいなかったということなのだと思う。
対極に置かれたどちらの子供にも、
同じようにお金をつぎ込む「親」がおぞましい。

この学園の気持ち悪さを責めるのはこれくらいにして、
そんな学舎としてぶっ壊れた環境で、
生徒一人一人の事情も歪みまくっているにも関わらず、
踏み込まない、という一点をマナーにすることで、
それなりにらしい形で学生をやっている生徒たちに感心する。
こういう妙な学校でなくても、
子供には子供だからこその一線の引き方があって、
憂理のような子も含めた彼ら全員がやっているのは、
それが少しばかり拡大して確固としたものになっただけの、
文字通り一つのマナーなんだろうと思う。
ただ、それがあまりに徹底しているせいで、
ファミリーなんていう枠組みは歪に見えるし、
どんな楽しげな行事にも青春の一ページにも、
全員でそれを演じているだけのような白々しさがつきまとう。
建前上は優秀で上品な子供たちばかりなのに、
何かと羽目を外させるようなイベントが多いのには、
その白々しさを少しでも拭おうとする意図が見えるけれど、
自分の「墓場」ではしゃぐほど、子供は馬鹿じゃない。

最初からヨハンの仮面が見えていると、
この少年の天使っぷりと、
それにやられる少女達の純真が滑稽でならない。

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