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2012.04.19 (Thu)

サタニック・スイート


サタニック・スイート
(2012/3/23)
ヤマシタトモコ

不幸で可哀想で惨めなことを、
誰かや世界のせいにしても、
借金は減らない。お腹もふくれない。
サトルはそれをよく分かっている。

彼女がそうしない分、言ってやりたい。
悪いのは、君のパパです。


【More・・・】

人を憎んではいけない。妬んでもいけない。
誰かのためというわけではなく、
それを癖にしてしまって一番腐るのは、
妬ましい憎いと思う自分自身で、
思えば思うほど、感情は増幅してしまう。
だから、強く戒めなければいけない。
サトルという子は多分そう思って生きてきた。
彼女を支えるその戒めには芯があるし、
同じ境遇に置かれたらこうは在れないとも思う。
ただ、彼女が柳谷に関わってしまうのは、
その正しいはずのそれを、
本当には信じていないからなのだろうと思った。
何を支えにしても不幸が何一つ変わらないのなら、
不幸を他人のせいにもできないという不幸、その甘みを、
口の中で転がすように味わっている方が良い、とか
サトルの頭の奥の方にあるものを想像する。
柳谷はサトルより二段階くらい安易に世界を憎んでいて、
なのに、彼女と柳谷は同じ位置にいる。
「おまじない」が発動して壊れるのは、多分柳谷じゃない。

六篇から成る短編集の中で、
表題作「サタニック・スイート」の威力ったらなかった。
保護者がダメ人間なせいで不遇で、
でも存外明るくて生き上手、な一方で、
相応に傷や不安定さを抱え込んでいる少女。
と書くとヤマシタさんだなあという感じだけれど、
サトルは似た境遇の別の作品の女の子とは、
何か最初の立ち位置のようなものが違う気がする。
たえ子や小春、十和子さんには、
降りかかってくる理不尽をどうにかする術がなくて、
だからこそ、心の在りようや他者との関係によって、
どうにもできないそれに立ち向かう。
サトルには、力がある。使おうと思うだけで使える力が。
多分そこのところがサトルと彼女たちを分けていて、
使える力があるということによって、
逆に彼女は力のみらなず感情も抑制しているのだと思う。
使えば、終わる。そのことを分かっているから。
もしも悪用しないことをあのパパが教え込んだなら、
二千万超の借金から数万円をチャラにしてやりたくもあり、
再会時の殴打を増してやりたいような気もする。

魔法は気合いらしいので、
サトルがパパを見つけられないのは、
多分サトルが見つけようとする気持ちよりも、
ダメ親父が見つかるまいとする気持ちが勝っているということ。
言葉にしてしまうと惨く聞こえるけれど、
たとえ自分を不幸だと思うことに酔ったり、
言ってはいけないおまじないを思い出してしまったりしても、
為す術なくパパに手を引かれて逃げ回るよりは、
どんな仕事であれ頼りにされて、
一度も立ったことのない「あちら側」へ戻るために、
頑張ることができる方がいくらかマシだと思う。
木刀で空を飛ぶなんてのは、
普段の様子からしたら明らかにオーバースキルで、
それほどに柳谷がサトルにとって止めねばならない相手だったのは、
この男が力や自制をなくした自分のように見えたからなんでしょう。
だからサトルは体を張ってでも止めに行くし、
だから、呪文を口に仕掛けてしまった。
彦間さんの手程度で済んで良かったと本当に思う。

サトルに惚れたという話はこれくらいにして、他の短編も。
「イナズマ」の横屋と稲束それぞれバカさとか、
「ビューティフルムービー」のまり江ちゃんのおバカさとか、
「ねこぜの夜明け前」の久司の弱っちさとか、
どの一篇にも抉られながら愛しいと思えるものがあったけれど、
「MUD」の頌子ちゃんの純情には格別やられた。
好きかも、と思ながら、
あと一つ「情熱のようなもの」が欲しいなんて、
つまりは、これが恋かどうか分からない、的な、
始まりの頃の普通の戸惑いでしかなく、
心臓がはじけ飛ぶ前から彼女は多分落ちていたのだと思う。
拾った情熱がたまたま「汚い」と言われるものだったせいで、
あんな見ていられない傷つき方をしてしまったけれど、
辞書を枕にうだうだ考えていることは、
各種道具の頭文字すら知らない少年少女並に真っ直ぐで、
先生が趣味の領域の外で赤面してしまうのも仕方ない。
聡明な彼女のことだからかなり頭の中でまとめてきただろうに、
「?」だらけの述懐になっているのは、
結局「伝えたいこと」がたった二文字なのだから、
何をどう理論構築しても無駄、ということなんでしょう。

言ってはいけないおまじないの呪文が、
発言者の意思を排除できない言葉であることが、
力ある者に課せられた荷なのだと思う。
飽きもせずサトルのことを考えている。

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テーマ : 漫画 - ジャンル : アニメ・コミック


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