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2012.04.26 (Thu)

乙嫁語り 1~3巻


乙嫁語り1
(2009/10/15)
森薫

日々を家の仕事に費やし、
言うべき言葉は持たず、
夫と家族のために生きる。

そんな三段重ねの不幸の論法は、
ここでは意味をもたない。

アミルはどこまでも伸びやかに、美しい。


【More・・・】

ディスプレイの向こうに世界が出来てから、
仕事場は必ずしも家の外ではなくなったけれど、
少し前までは、勤務とは赴くもので、
そこで得た報酬によって家は保たれるものだった。
間にお金という社会的な存在が挟まっていても、
その基本の構造は狩猟時代から変わっていない。
狩りに行くのは男で、家を守るのは女。
とか言うと、女性の社会進出がどうのと、
どことは言わず声が上がるだろうけれど、
それはそもそも家やその周辺、つまりは生活の場を、
「社会」から隔離して考えるからそうなるわけで、
エイホン家を中心としたアミルの生活を見ていると、
そこは確かに社会に認められた社会の一部で、
男性との違いをあえて言うなら、
単に「働く」場が生活の場に重なっていることだけだと思う。
彼女たちの日々の営みのほとんど全ては、
家のため、家族のために「働く」なのにも関わらず、
そこには「労働」につきまとう負のイメージは皆無。
スミスが記述する「生活」の温かさに、胸が詰まった。

婚礼の場で初めて伴侶と対面する、というのは、
時代を遡れば多分どこの国でもかつてあった結婚の形で、
当然そういう婚礼は当人たち以外が進行させるから、
色々なすれ違いが起こるのも当然でしょう。
アミルとカルルクの婚礼でのすれ違いは、
時代的な背景を考えればなかなか深刻なのだけれど、
「あら!」と笑うアミルと、
素敵だと思うとか、幕家での「お話」とかを
なんのてらいもなく言えるカルルクだから、
周囲の者も最初のすれ違いを問題にしないのだと思う。
やり方には大いに問題があるとはいえ、
子供ができるまでは夫婦ではない、という考え方が一般的なら、
嫁を返せ、と言うハルガル家の言い分は、
それほど道に外れたものでもない。
お刀自もそれが分かっているから強硬に出るしかなかった。
そうまでしてでもみなでアミルを守ろうとするのは、
ひとえに彼女の人徳のなせる業な気がする。
こんな嫁を貰えたカルルクが羨ましくてならない。

アミルやタラスたちを話の中心に据えながらも、
どの話にも時代と地方に即した生活の匂いがしっかりとして、
それを感じるだけでも十二分に楽しかった。
たとえばアミルの服や装飾品だけ見ても、
これでもかというくらい書き込まれていて、
しかも書き込んだ服に人を入れているのではなく、
人が肌になじませて着ているのがよく分かる質感。
馬を駆り弓を引くアミルのどの動作にも、
服や装飾品が邪魔をしていない。嘆息もので上手い。
カルルクと二人きりのときなんかの下ろした髪や、
水浴時の諸々の豊かさは言わずもがな、
普段の髪や肌をほぼ隠した状態でも、
アミルはとても魅力的な女性で、
その魅力は言動もさることながらやはり一番は表情だと思う。
基本のニコニコ顔も多分特に作ってはいないんだろうけれど、
狩りのときに見せる静かな瞳や、
カルルクと姉弟のように笑い合う無邪気な笑い、
そして夫を思うときの様々な顔。
ハルガル家はちゃんと温かい場所だったのだと思う。

次々に足元を削り取られるようにして、
寄る辺をなくしていくタラスの姿は、
夫や家族というものを人生の中心に据える以外に、
生きようのない「嫁」たち誰にも在り得る将来で、
アミルとカルルクが殊更に仲睦まじいだけに、
もしもを考えるとぞっとする。
カルルクが風邪を引いて寝込んだとき、
可哀想なくらいアミルがうろたえるのは、
村で定住するエイホン家よりも、
一年の半分を草原を移動して生きる実家の方が、
不意に人を奪われることが多かったからなのだろうと思う。
血の近い者が集まって暮らしていれば、
当然病に対する抵抗性や遺伝も偏ってしまうから、
タラスのような例はそう珍しくないのかもしれない。
でも、5人は流石にあまりにあまりで、
彼女の伏し目がちの笑顔が見ていられなかった。
スミスと二人きりのときにはぽつぽつと話すのに、
涙を浮かべながら漏らす言葉をもたないタラスには、
どうあっても幸せになって欲しいと思わずにはいられない。

アミル、タラス、サニラ、ティレケなどなど
たくさんの「嫁」が出てくる中でも、
まあ案の定パリヤが好きといういい加減仕方ない。

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テーマ : 漫画 - ジャンル : アニメ・コミック


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