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2012.04.30 (Mon)

私の中の中


私の中の中
(2000/3)
サンドラヴォ・アン

心の均衡が粉砕される経験や、
狂気に至る瞬間が、
おそらく、どんな人でなしにもあった。

そのおぞましい所業より、
踏み外す瞬間を見たくないのは、
彼らが昔も今も変わらず、
人であること思い出したくないから。


【More・・・】

実際に誰かを痛めつけたいとは思わないし、
痛みそれ自体で悦ぶ趣味もなく、
自傷に至った経験もないから、
手段としては言わずもがな、
目的としての暴力も、基本的には受け入れられない。
現実におけるその世界は、
住人たちだけで閉じられているべきだと思う。
ただ、フィクションにおけるそれ、
悪趣味の極みのようなスプラッタやグロ、
それからそれらと隣り合う迷妄とエロの世界は、
まあ嫌いではない、というか心躍る感は否めず、
結果、青春やミステリや叙情を愛する一方で、
その手の物語を間断なく欲してきた気がする。
生臭さと嫌悪感でえづく、それだけの物語。
多分私が読みたいのはそういうスプラッタで、
その求めの基準から言えば、
今回はちょいと肩すかしを食らってしまった。
殺人鬼は壊れているだけでいい。背景も孤独もいらない。
そんな風に思う人でなし。

壊れている、という意味で言えば、
主人公のプレイストンは間違いなく壊れている。
所業の残酷性もさることながら、
最中の思考や終えてからの反省の理屈は、
「彼」や「吸血鬼」という建前はあっても、
それさえ彼自身がただの嗜好だと後から認めたり、
にも関わらず殺した女性の復活を本気で願ったり、
思考の回路が壊れている、というより、
回路にさえなっていない、破綻しているように見える。
腐って崩れたような彼の一人語りは、
理路整然と狂っているタイプの人間のそれより読みづらく、
その読みづらさが、退廃を感じさせて良かった。
良い、からこそ、たまに挟み込まれる、
プレイストンの「正気」が邪魔に思ってしまった。
彼は逮捕されることを恐れているし、
過去と向き合いたくない、と逃げている。
またその残虐嗜好とは別に魅力的な女性に焦がれる。
そんな普通の感情などさっさと腐り落ちていれば良かったのに。

プレイストンが今のようになった理由は、
細部までは描かれていないものの、
この男のやり口と思考を考えれば、
大方の予想はつく。ついてしまう。
殺人鬼フジコの衝動」のフジコや、
平山夢明の描く壊れた人間だって過去を持っているけれど、
プレイストンの背景をこんなにもうるさく思うのは、
その哀れな幼少期の体験と、
成人になった男の現在の所業が、
あまりに一直線に結びついているからだと思う。
誰しも過去なしには現在を構築できないし、
一つの経験がその後の在り方を規定することも多分ある。
だとしても、その経験と「大人」の間には、
それ以外の経験や時間が重なるはずで、
一番下の土台の形がそのまま現れるなんてことは、ない。
現在から容易に過去を逆算できてしまうのは、
プレイストンという男が子供のままだからで、
支離滅裂は幼稚さ、狂気は混乱と怯え。
そんな置換が成り立つと、スプラッタとしては愉しめない。
怯えた子供で遊ぶ趣味は虚実問わずないのだから。

プレイストンの一人語りの間で、
男と関わりをもってしまった三人の女性が語る。
殺される者の側から殺人者を見てみると、
死と痛みに対する単純な恐怖に一度覆われてしまえば、
プレイストンが求めている「コミュニケーション」など、
成り立つわけがないことがよく分かる。
まあ、剃刀やら針と糸やらその他様々な器具で、
自分を傷つける相手の事情に涙するような女がいたら、
そんなのは加害者とは別の方向に歪んでいると思う。
何人殺しても男の乾きが癒やされないのは、
結果として殺してしまうがゆえに交流できないからではなく、
多分、最初の一手より前、
女たちに近づく姿勢から間違っているから。
分かって欲しい、傍にいて欲しい、と思うばかりで、
プレイストンは彼女たちの事情を分かろうとはしない。
女に限らず、表面上のやり取りだと知っているもの以上は、
他人を受け入れられないのだろうと思う。
それはおそらく身体上のコンプレックスに根ざしていて、
思春期のガキか、と言いたくなった。

プレイストンのような男でも、
パイパとなら血を挟まずに傍にいられたかもしれない。
だからこそ、逃げるんだろうけれど。
あれだけのことをしておいて、全力で腰抜けだった。

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