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2012.05.01 (Tue)

カンニング少女


カンニング少女
(2006/4)
黒田研二

不正を犯したとき、
刑罰そのものよりも
社会的な喪失が重く効く場合がある。
信頼は数十万円以下では買えないのだから。

そのリスクを十分承知し、
努力の後に「真っ当に」不正を行う少年少女。
叱る前に褒めてやりたくなった。


【More・・・】

ペーパーテストで点数を取ることの意味は何なのか、
脳細胞が死滅するのを感じた夜に、
ふと考えたことがあったのを思い出した。
資格試験や入学試験の場合は、
一定以上の点数でもって能力に線引きをし、
権利を与えるか否かを判断しているわけで、
要は対価あるいは通貨として、点数が用いられている。
では学校での定期試験や模擬試験で、
たとえば10点余計に得点・失点することで、
私は一体何を得ているのか、失っているのか。
もちろん試験はその時点の力を知るためのもので、
得点それ自体に大した意味はない。
でも学生が欲しいのは、やはり点数。
そして成績が代弁するはずの自分の価値・評価・将来。
それが欲しくて睡眠も遊ぶ時間も削る。
つまりはその労苦と得られるものの大小関係が、
勉強への意欲もとい試験への意欲なんだと思う。
試験を突破して何かを得るのは玲美だけなのにも関わらず、
それが努力と不正を犯す罪悪に勝ると判断するからこそ、
三人は数か月をその一日のために費やす。
カンニングの協力者、という存在を見直した。

試験で不正行為を働いたことがあるか、と聞かれて、
考えたこともない、と答えられる人間は多分少ない。
少なくとも私は実行したこともある。
小学生で、しかも盗み見という古典的方法だったこと、
さらには見た相手の答えも間違っていたことなど、
玲美たちがやらんとしているカンニングとは、
全くスケールも精度も違うけれど、
真面目に試験を受けるときの数倍の緊張や、
不正に取得した解答を提出したときの罪悪感だけは、
玲美の感じている通りに感じられたと思う。
一回やってあまりの気分の悪さに辟易とした。
点数をちゃんと取りたいと思うなら、
試験は事前の準備なしには基本的にどうにもならない。
その意味で、彼らの事前準備とそのアイディアは、
全く感心するしかないレベルだった。
同じように大学入試でカンニングを図る「平成トム・ソーヤー」では、
スリの腕前だけは努力の賜物だったものの、
基本的な計画は古典も古典の問題の事前入手。
それに比べて彼らの考えるやり方のスマートさったらない。
QRコードとか偏光シールとか、現代っ子だなあと思う。

玲美が難関大学への入学を望む理由は、
大学入学の先を考えずに受験する学生より、
もしかしたら褒められたものではないと思うし、
いくら鈴村助手との接触が困難と言っても、
真相に至るための道は他にいくらでもある気もする。
脅迫するような手紙の一つでも書いて呼び出せば、
入学のための苦労も入学後の苦労もせずに済む。
そこにきて玲美の選んだ方法はあまりに迂遠で、
もっと賢く立ち回ればいいのに、と思ってしまう。
ただ、彼女のやり方は迂遠でも、真っ当ではあるんだと、
ほぼ完璧なカンニング方法にたどり着きながら、
自力で解くことを放棄しない玲美を見ていて思った。
カンニングなんてのは一度発覚しただけで、
諸々の権利も信頼も失って当然の行為だけれど、
目的のためにできる限り真っ当な道を選んで、
それでもどうにもならない部分を補う、という姿勢は、
端から勉強する気もない現馳田の学生とは一線を引いてやりたい。
鈴村さんなら、最初から真面目に勉強を、と言うでしょう。
でも、玲美が勉強する意味はあの週末に初めて生じた。
遅すぎるなんてことは誰にも言えない。

外部に協力者を置いてやるカンニングは、
通信機器の発達に伴って確実にやりやすくなっていて、
以前なにかの映画で見たような、
「隣接する建物の屋上で旗を振る」とか
そんな楽しいおバカをやる必要はなくなっている。
隼人ほどの技術屋をメンバーに加えなくても、
携帯一つあれば試みるのは現実的にそう難しくない。
だから、完璧なカンニングとは、
いかに解答を得るかではなく、
いかにバレずにやるか、が焦点なのだと思う。
その点から言っても隼人のグッズの数々は素晴らしい。
疑われても、調べられても、足がつかない。
それには実行者の精神的な負担を減らす効果もあって、
今回の計画の一番の功労者は彼だと思う。
完璧な解答を作る愛香ももちろん不可欠なので、
最後に杜夫に見せ場があって安心した。
精神的な支柱、だけでは定期試験での奮闘が悲しすぎる。

隼人のグッズは本当に実践的なので、
ちょいと技術を持った高校生なら使えてしまいそう。
いかなる方法にしろ、
リスクは覚悟せねばならないのは言うまでもないけれど。

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