2017年10月 / 09月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫11月

2012.05.10 (Thu)

うつくしい子ども


うつくしい子ども
(2001/12)
石田衣良

世界が一変する日を越えても、
今日の後には明日が続き、
過去は執拗に追ってくる。

重荷を負うて行く遠き道。
14歳の背を軋ませる荷は、
他の誰にも代わってやれない。


【More・・・】

教育は未来を作る仕事だ、と
ある中学校教師が語るのを聞いたことがある。
語る瞳の誇らしげな感じが印象的で、
同時に、作る、という言葉が怖かった。
私たちは今まさに作られているのだと思う一方で、
その未来とは誰のものなのかと考えたことも覚えている。
される立場からすれば教育と支配はほぼ同義で、
子どもの未来に希望を信じる言葉が、
脅迫的に聞こえてしまったのはそのせいでしょう。
今はその言葉が誇りと同時に責任に背を正すものであることがわかる。
何を思ってなされたとしても、教育を評価する基準はやはり子ども、
特に彼らが何を為すのか、に依っている。
生来の質というものは確かにあるけれど、
教育は子を社会に見合う人間にするものとして、
どんな子に対しても定義されるべきで、
それが出来なかったのならいかなる思想も願いも、
教育を名乗ってはならないだろうと思う。
彼が重大な罪を犯したのは勿論それだけが原因ではないけれど、
教育を担った者が繰り返す「願ったのだ」という言葉は、
どう控え目に言っても、言い訳にしか聞こえなかった。

故なく苦しい立場に追い込まれ、
それでもその原因たる弟を見捨てたくないと思う幹生の強さは、
和枝が13歳であれだけの罪を犯したこと以上に、
年齢にそぐわないような感じがしたけれど、
子どもが急速に大人になっていく過程として見れば、
灰色の海を行く、と決意する姿はあるべきものである気もする。
幹生の行く先がどこまでも灰色なのは、
彼の人生に待ち受ける幾多の困難だけではなく、
その目標が決して達成されないものであることも関係するのだと思う。
弟が何を思い、何を考えてそこに至ったのか、
理解してやりたいと思う背後には、
家族の本当が見えていなかったことへの後悔と、
人殺しの弟と向き合おうという前向きな思いがあって、
自分にできる方法で一歩一歩進む幹生はたくましい。
でも、たどり着く場所は「灰色の港」、
つまり弟の心を理解できる日は来ない。
殺人や兄弟の関係が問題なのでは多分ない。
他人の中にあるものを本当に理解することはできないという、
ごくありふれた断絶があるだけなのだと思う。
それを知っていながら漕ぎ出そうとする少年は眩しい。

事件と幹生の決意をきっかけにしたクスノキの集会は、
秘密で行われる会合という意味と、
秘密を持ち寄る場という二重の意味で、
まさに秘密基地な仕様になっていて、
事件から広がる波紋の暗さと切り離されて青春だった。
長沢くんの抱えている秘密は、
中学生が自分一人で肯定するには難しいもので、
誰かに話してほっと息をつく気持ちはよく分かる。
まさきの隠された一面や自分に対する思い、
襲われたときの自分を恥じる言葉にも覚えがあるし、
何より、夏休みに永遠を、
街を出ていける日を数万年の彼方に感じている彼らは、
陰惨な事件の核心に迫ってはいても、ただの中学生だった。
事件の中心にごく近い位置にいる幹生も、
夜の王子を追うようになってからは特に、
弟を理解したいという切実な思いから離れて、
真実を明らかにする作業に夢中になっているように見えた。
言ってしまえば魅力的な遊びに興じているように思えて、
追っているのが弟の殺人でさえなければ、微笑ましかった。

事件から後幹生の周囲で変わったものはたくさんあって、
そのほとんどは人殺しの兄たる少年にとっては、
ひたすら耐え忍ぶしかできないものだったけれど、
クスノキの集会やミッチーの明るさだけでなく、
見ず知らずの他人が与えてくれる温かさに対して、
素直に感謝やいたたまれなさを感じるなんて、
そう簡単にできることではないように思った。
感性の面の話だけでなく、
フィールドワークや二名法を応用する形で、
雑多な論を分類しようとしたり、
墓参りや大迫くんの事件への積極性や度胸を見るに、
幹生の自分に対する評価は過小に過ぎると思う。
三村夫妻が子どもたち全員に同じ接し方をしていないことは、
子の側から見た親の公平性という意味では問題がある。
でも、幹生、和枝、瑞葉、の三人の子供それぞれを見れば、
教育の責任の問題は横に置いておくとして、
良くも悪くも、確かに親の思いの外で子は育つらしい。

状況的に他にどうしようもなかったとはいえ、
松浦さんの決断と幹生への頼みは、
親たること、職業、それから大人として、
全ての責任を放棄したものでしかないと思う。

スポンサーサイト

テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


19:45  |  あ行その他  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://acon6960.blog40.fc2.com/tb.php/429-2c765ad2

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |