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2012.05.16 (Wed)

下町不思議町物語


下町不思議町物語
(2912/1/28)
香月日輪

理不尽に負けない根性と、
人を気遣う優しさと、
不思議を受け入れる柔らかさ。

どれも持っている直之に必要なのは、
心をほどけるゆるい場所。
珍妙奇天烈な隣人たちはご愛嬌。

【More・・・】

雨の日に秘密の場所で本をめくるとか、
林の奥に向けて藪を突き抜けるとか、
いつでも簡単にできる程度のことで、
ある日ふいに異世界に踏み込む主人公たち、
その冒険に心躍らせながらも、
たとえ同じ状況で同じ選択をしても、
扉は自分の前には現れない、と
私は最初から諦めていたような気がする。
異世界の存在そのものは信じていた。
憧れたし、そこへ行きたいと渇望したりもした。
でもそう願う分だけ、あちらの世界は遠ざかる。
トトロに会えるのは一心な子共だけだけれど、
子供の中にだって会える子と会えない子がいて、
子供であることだけが通行証になるわけではない。
直之は越境を許された。日参することさえできる。
人ならぬ者モノのそばに温かい居場所を得た。
子供の健やかな成長に頬を緩めつつ、
その通行証を切実に羨ましく思う狭量な大人。

小学六年生という年齢は、
異世界に招かれるには少し大きいように思う。
直之自身が言っている通り、
来年にはもう中学生なのだから、
トトロだのお化けだのに対する親和性は、
サツキの例を考えるとかなり下がっているはず。
メイの年でさえ必ずトトロに会えたわけでもないのに、
ふしみ町は懐が広いというか敷居が低いというか、
異世界の中ではわりにこちらに近い場所ある。
そういえば、完全に一人前の大人で、
しかも愛憎渦巻く生臭い現場で働いているポチも、
全く障害なく普通に通ってきているし、
この町に入れるかどうかの基準は、
無垢さとか一途さなんかの子供の特権ではなく、
単に町やそこにいるモノに縁があるかどうか、なのか。
少しうがった見方をするなら、
町の在り様を受け入れられる者だけが、
町に受け入れられる、とも言える気がする。
踏切に飛び込んだ女と玄関で普通にすれ違える自信はない…。

勉強も心身の成長も人より遅れていること、
言葉や習慣の違う土地に引っ越してきたこと、
家の中に安らげる場所がないこと、
どれか一つでも子供が心を凍らせるには十分な気がするのに、
直之のへこたれなさと言ったら驚異的だった。
ほとんど初対面の人間の家で眠りこけてしまうくらいには、
相応に孤独と疲労をため込んでいたようではあるけれど、
少なくとも直之はそれを表に出さないし、
殴られたら殴り返すだけの気概も失ってはいない。
親として十全とは言えない父と母であっても、
直之がこうして立っていられるだけの何かを、
与え残せるくらいにはちゃんと親だったのだと思う。
体の成長が数年遅れるくらいの大きな病気をしたことや、
離婚に向かっている間の殺伐を考えると、
多分そうして親子三人一つ家で平和に暮らした時間は短い。
それでも直之はホットケーキの味に母を思い出し、
盾としても剣としても頼りない父を大好きだと言う。
喫茶店に集う人々(?)が胸を詰まらせるのも頷ける。

直之が師匠の家や喫茶店を訪れるたびに、
何やらおかしなモノがいたり通り過ぎたりして、
それがいわゆる「妖怪」だけではないのが新鮮だった。
夢の涙を宝石に変える三角帽子の小人がいたり、
正義のヒーローっぽいガンマンが立ち話してたり、
庭をトトロ(小)が通り過ぎたかと思えば、
ポチがおどろおどろしい怨念を連れてくる。
全く世界観の統一も何もあったもんじゃない混沌具合で、
ますますもって町がどこにあるのか分からなくなるけれど、
直之のような異邦人も含めた町の誰も、
そのことに余計な感想を差し挟まないのが気持ちよかった。
まあ、それぞれがその変なものの一員のようだから、
彼らにしたらふしみ町の在り様は自然なのかもしれない。
でろでろした邪悪なものにモテモテのポチも、
日々呪い殺されそうになっているくせに、
それほどそのことを気にしているようには見えなくて、
妬み嫉み憎しみ、それからそれに起因する死なんて、
大したことではないような気がしてくる。
まさに「サラリ」とした感じ。直之の国語力は心配ない。

走りともふもふが信条なのがネコバスなら、
優しさと武闘を売りにするのがネコタクかも。
親御さんも安心です。

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2012/05/20(日) 04:12:25 | まとめwoネタ速neo

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