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2012.05.25 (Fri)

暁の円卓2 情熱の歳月


暁の円卓2 情熱の歳月
(2004/6)
ラルフ・イーザウ

デービッドが持っているものは、
二本の刀と幾人かとの絆だけ。
海を割る力もなければ、
過去をありのまま語る余裕もない。

それでも、青年は心を決めた。


【More・・・】

世界を滅ぼさんとする悪に立ち向かうのだから、
ヒーローは無敵くらいでないと困るはずなのに、
そんな英雄像はとんと思い浮かばない。
常人を越えた能力や規格外の正義を備えていても、
結局彼らの心や体が完全なものであった試しはなく、
大抵どこかに欠けを持っている。
世界を救ったり守ったりを任せるにはあまりに頼りなく、
悪の方がよっぽど隙がないように思えたりするし、
そんな不完全な存在に世界を託すなんて、
選ぶ天上の誰かさんの気が知れないとも思う。
デービッドは世紀の子。ヒーローとして生まれた。
諸先輩方の例外に漏れず与えられた力は穴だらけで、
積み上げては崩され、繋げては断ち切られる道程は、
世界を呪いたくなっても仕方ない苛烈さ。
けれどデービッドは逃げ続けた十代を経て、
影さえ見えない敵に向き合うことを決めた。
自ら鍛えた剣とペンの腕を何よりの武器にする姿は、
完全ではないからこそ味方したくなる。
つまりは英雄そのものだった。

100年の人生を宿命づけられる、というのは
その間は不死身ということなのかと思っていたけれど、
どうやら神が与えたのは運だけのようで、
それで賄いきれなくなれば、普通に死ぬらしい。
そうすると死ぬために戦場で無茶をしていた二年間、
デービッドは本当にギリギリのところにいたんだなあと思う。
本人の機転と他者の助けがなければ、
秘密結社云々の前に名もない兵として葬られるところだった。
デービッドが戦場を後にする過程を見ていると、
もう無理おイタはおしまい!的に、
神さま的なものがヒーローの回収を決めたような感じで、
治ったから、と塹壕に戻ろうとする青年が、
親の慌てる様を楽しんでいる息子のようだった。
まあそんな天上のお方が手を下さなくても、
マリー母娘が力づくで止めただろうけれど。
人と少しずれた時間を生きているデービッドにしたら、
13歳の少女なんてのは年齢以上に遠かっただろうけれど、
たくさんの傷病兵を知るレベッカにしたってそれは同じ。
愛を表明する少女の本気を甘く見てはいけない。

理不尽に背負わされたものなのに、
負って歩くと決めて以降、
デービッドは揺らいでいないように見える。
本当に目的を達成できるのか、とか
大切な人を守りきれるのか、とか、
そういう種類の不安はいつでも抱いていて、
レベッカを守るための警戒は大げさな気もするけれど、
世界を滅ぼそうとする者たちと敵対することや、
その過程でおそらく敵味方なく死人が出ることは、
多分すでに彼の中では迷う余地のない事項になっている。
いつまでもそこでうじうじとしていては、
それこそ暗殺者に大切なものをかっ攫わされてしまうとはいえ、
戦うことや、そもそも暁の円卓とは何なのかについて、
少し立ち止まって考えてほしい気もした。
戦場から帰ってそのまま刀引っさげて突撃したりせず、
敵の実態や歩みを数年かけて机の上で追う慎重さと思慮を、
誰かを悪や敵と定めるところにも発揮して欲しい。
両親や友人を惨殺して回る相手が敵でないことなんて、
ないと言えば確かにないのだけれど。

デービッドと暁の円卓の戦いにハラハラする一方で、
今回も二十世紀の偉人たちが無造作に登場して、
あまりに普通に、まるで市井の人かのように出てくるので、
これがあの人だとは一瞬分からずギョッとしたりもする。
ヨシが伊藤博文に連なる人だってことも忘れていた。
しかし今回の一押しビッグネームはなんと言ってもトールキン。
ファンタジー界の超大御所だから、
それこそファンタジーの中の話とは言え出し難い気がするのに、
よくさらっと重要な位置に置いたものだなあと思う。
指輪物語といくつかの短編小説を読んだ感じでは、
トールキンという人は世界を構築することに関して、
ほとんど病的と言ってもいいくらいにこだわる人、という印象で、
静かなパブで学生相手にお茶をする雰囲気は、
そのイメージにそぐわない。
それは相手がどんな背景と肩書きをもっていても、
目の前のその人そのものだけをその人として扱う、
デービッドの視点が影響しているのだと思う。
実在のトールキンにこんな日があろうがなかろうが、
デービッドと出会ったのはだからジェイムズ・ロナルド・R・トールキン。
文学と歴史、言葉への情熱でいっぱいの一人の講師。
なんとも夢がある出会いだった。

日本人でも分かりにくいくらい皇室関係の言葉が頻出で、
漢字表記でぎりぎり理解できるけれど、
日本を知らない人からしたら厳しいものがある気がする。
イーザウさんの勉強量半端ない。

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暁の円卓〈2〉情熱の歳月(2004/06)ラルフ イーザウ商品詳細を見るデービッドが持っているものは、二本の刀と幾人かとの絆だけ。海を割る力もなければ、過去をありのまま語る余裕もない。それでも、青年は心を決めた。
2012/05/26(土) 01:23:10 | まとめwoネタ速neo

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