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2012.06.01 (Fri)

京都怪談 おじゃみ


京都怪談おじゃみ
(2010/5/19)
神狛しず

死者がみな向かうべき、
あの世とかいうものがあるのなら、
確かにこの世は生者のもの。
死んだ皆さんは鼻つまみ者。

でももしも、このもあのもないなら、
世界は死者のものだ。
生者である優位など、存在しない。


【More・・・】

言葉を教え、社会になじませる過程を経て初めて、
子供は人間になる、らしい。
教育とはいまだ人間ではない動物を、
人間にするための仕組みなのだという。
ならば、子供が好きかどうかは、
犬が好きとか猫が嫌いとか、
そういう話と同じように語られていいと思う。
あれは人の形をしているだけの動物なのだから。
などとほとんど本気で思っている人間からしたら、
生き物かどうかも怪しい異形の我が子に、
これでもかというくらい酷い母親の所業は、
弱い生き物相手にそれは残酷だろうとは思うけれども、
赤ん坊になんてことをとか、母親のくせにとか、
そういう視点では全く怖いとも酷いとも思わなかった。
それが大切なものを食った化け物なことを考え併せれば、
むしろ最初の頃はよく抑えていたと思う。
抑えてしまったからこそ、呑まれたのか。

「おじゃみ」の外見はなかなかに化け物染みているし、
嫉妬を起点にして見せる凶暴性が、
いきなり小動物から人間の大人サイズまで拡大したりして、
その成長の早さ、柔軟な変化が気持ち悪くもある。
ただ、基本的にはおじゃみはただの子供なのだと思う。
庇護者に愛されなければと思う、子供。
母親の腹に戻って産み直して貰おうとするのは、
多分今のままでは愛されないと分かっているからで、
弟のようにまとも外見と性質を備え、
母が愛せるようなタイミングで産み落とされたいと、
人間以前の頭で望んでいるのだと思う。
そう見ると、おじゃみの行動は怖いというよりも、
ただ悲しいもののように思えて、
母を手に入れた後の安堵が可愛くさえ感じる。
そういうわけでこの話の怖さはむしろ、
けなげなおじゃみに対する母親の仕打ち、のはず。
この世のものではない異形がもっている善性に対して、
生者であるという傲慢さが見せる所業の怖さ、という点では、
「前妻さん」も同じような話なのかもしれない。
「畜生以下」の母親には同情しても、
奈々子はぶっ叩いてやりたくなったけれど。

巨大なお手玉の中の赤ん坊、かいがいしい幽霊、
文字通りぺらっぺらになった嫁、などなど
全体を通して出てくる怪異が妙に滑稽で、
怪異そのものが怖い話は一つもなかった気がする。
その中でも群を抜いて面白いのは、
「増殖」の藤芳くんだと思う。
分離した自分の体の一部を持った幽霊、というのは、
首が一番ポピュラーな形でそこここに出てくるので、
腕一本というのはやや迫力に欠けるけれど、
自分の腕をだらっと持った幽霊が部屋にいると分かっていて、
平穏に暮らせるのは爽子さんは並じゃない。
でも幽霊として、多分藤芳くんも並じゃないと思う。
そもそも自由に住処替えする時点で、
一体何に縛られてこの世に残っているのかという感じなのに、
物質世界の法則に従うかどうかも自由っぽく、
気に入った人にまとわり憑くところだけは幽霊なものの、
呪い殺さずむしろ守るやり方が犬のよう。
川の字になってみたり庭をひそかに管理したり、
言葉を交わせたら、わりと面白い人なのかもしれない。
腕の切断理由が手品の失敗とか、本気でありそう。

「安全地帯」だけは怪異という怪異が出てこない。
茉莉花という少女をなくした及川さんの世界が、
それ以前とは決定的に歪んでしまっただけ。
「気を付け」なければ生きていくことができないのに、
それをやめてしまった茉莉花と、
そういう風にしかうずく傷と折り合えない友人に、
何もしてあげられなかった及川さん。
被害者にならないためには加害者になる覚悟が要る、なんて
加害者になってしまった友人を被害者として亡くした子が言うと、
どうしてそんな悲壮な覚悟をしなければ、
彼女たちは生きられないのだろうと思ってしまう。
悪いのは女の子をさらって殺したり、
後のことを考えずに首をくくる男なのはもちろんだけれど、
彼女たちを脅かすそういうものを排除すれば、
加害者だの被害者だの嘯く必要がないのかと言えば、
必ずしもそうではないのだろうと思う。
及川さんの高校の中で交わされる噂には、
悪意に似たものが含まれているような気がする。
それで十分女の子も加害者になり得るのかもしれない。

「虫籠窓」のある家を守る鐘馗さん。
家人でさえ排除の対象になるなら、
背にかばっているのは何なのか。

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京都怪談 おじゃみ (幽BOOKS)(2010/05/19)神狛しず商品詳細を見る死者がみな向かうべき、あの世とかいうものがあるのなら、確かにこの世は生者のもの。死んだ皆さんは鼻つまみ者。でももしも、このもあのもないなら、世界は死者のものだ。生者である優位など、存在しない。
2012/06/01(金) 20:38:47 | まとめwoネタ速neo

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