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2012.06.19 (Tue)

英国の最後の家族


英国の最後の家族
(2005/12/9)
マット・ヘイグ

いつかは終わるとしても、
それはできる限り遅い方がいいし、
より幸福な形でもあってほしい。
そう願うのは人の常。

犬の身でその願いのために走るプリンス。
本当は願う者が努力すべきなのに。
人の立つ瀬がない。


【More・・・】

どんな人間関係もそうであるように、
家族にも別れが、終わりがある。
離婚や絶縁などの積極的形でなくても、
子供が成長し新しい家族を作り、
一方で父母はそれを見送って老いることで、
縮小しながら、家族は形を失う。
その過程は家族が殖えるのと同じくらい、
おそらくとても自然なことで、
単に悲しむには憚られる温かさがある。
いつか別の船か港に移る時がくるまで、
同じ船で行くのが家族だとすれば、
家族の崩壊、とは船の転覆などではなく、
それもまた一つの終わりの形でしかない気がする。
違いはそれが人員に望まれないことだけ。
プリンスが必死に回避しようとしているその終わりは、
絆のようなものだけで成り立つ人の家族にとっては、
悲劇ではあっても多分特別なことではない。
君がそんなに頑張ることはないのに、と言いたくなった。

プリンスの目を通してみたハンター家は、
その抱えている問題も含めて
どこまでも典型的な家族であるように思える。
不満を抱えた十代の子供が二人に、
すれ違いを感じている夫婦、孤独な老人、犬。
それぞれの不安が日常の中に、
わずかずつ漏れ出して空気を軋ませる感じや、
それをなんとかしようという努力がから回る様子。
どこを切り取っても家族だと思う。
プリンスがもっている家族の理想や幸福は、
別に特別な諦念でもなんでもなく、存在しない。
秘密や鬱憤はありきたりの持ち物で、
それを複数個持ち寄って一緒に暮していれば、
四六時中微笑み合っていることなど不可能でしょう。
多分プリンスだってそんなことは分かっている。
くさくさしている家族のメンバー自身が、
激情の中で忘れてしまっていても、
不和の底に愛情が流れていることを嗅ぎ取っている。
その敏い嗅覚の一端でも人に分けてやってほしい。

厳しい誓約を胸に刻んで、
人の家族のために献身するラブラドール。
他の犬からの蔑みや人の無理解に耐え忍んでまで、
なぜ彼らが必死に人の家族を思うのか、
終盤プリンスがフォールスタッフに語るまで分からなかった。
誓約がのたまう「永遠の恵み」というものは、
要は「悪事をすると天国に行けない」的なことで、
本当にそれを信じて誓約を遵守しているのなら、
どれほど思慮分別のある語り口であっても、
ラブラドールのやっていることは幼稚だと思う。
でも誓約を疑い、その囲いを取っ払ったとき、
プリンスの胸の中に残っていたものならば、
彼の痛々しく滑稽なまでの努力にも納得がいく。
そしてそれが大方うまくいかないことも。
なぜならそれはシャーロットやハルに対して、
そうせずにはいられないというように怒る両親の、
その胸の中にあるものと全く同じだから。
それに気づかない方がプリンスにとっては良かった気がする。

確実に家族を崩壊させる危機を退けるために、
プリンスがとった手段は、
人犬関わらず選んではいけない方法で、
それを選んだあとに誓約のことだけを思う辺りが、
人と犬の感覚のずれなんだろうなと思う。
犬の体で人のためにできることは限られていて、
思いを伝えるための手段もわずか、
なのに人よりも正確に危機の到来が見えていたら、
ただじっとしていることなんて、確かに難しい。
誓約に縛られて見ていることしかできなかったから、
ヘンリーは役割を果たせず、その重みにつぶされてしまった。
そうなるのと、愛のために罪を犯すこと、
どちらがマシなのかは分からないけれど、
どちらも本人のためにはならないとは思う。
最初から誓約などなければ、
自身のために生きたい犬はそのように、
人のために何かしたい犬も制約なく動けたはずで、
未来を憂えて遺す言葉などロクなもんじゃないのかもしれない。

終盤の怒涛の展開に、
犬一匹の奮闘と無力がやるせなかった。

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2012/06/21(木) 01:57:13 | まとめwoネタ速neo

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