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2012.07.23 (Mon)

ブルースカイ


ブルースカイ
(2012/5/10)
桜庭一樹

少女であることの要件とは何だろう。
年齢か無垢さか、
あるいはもっと別の硬質の何か?

無力さ、という解は、
世のたくましい少女たちの反発を買うに違いない。

【More・・・】

自分の住む街の外にもたくさんの街や国があり、
地球を離れれば星々があって、
その外にはきっとまだ人の知らない暗黒がある。
でもどんなに頑張って足を伸ばしても、
目にできる世界の広さは限られている。
しかも厄介なことに、一度目にしたからと言って、
そこが自分の世界と言えるわけでもない。
二本の手の届く範囲、とまでは限定されなくても、
生活の範囲の外にあるものを、
切られれば痛む自分の世界と認識するのは、
とても難しいことだと思う。
世界はその実在よりはるかに狭く閉じられていて、
だから、マリーの世界が悲劇で終わらないためには、
どうしても「穴」が必要だったのだと思う。
ブルースカイ自身が悲劇の中にいても、
彼女はまぎれもない救世主だった。

城壁に囲まれたレンスの街のさらに内部に、
マリーの世界は小さく囲われて存在しているように見える。
水車小屋とおばあちゃんを中心にして、
ゆりかごの中のような温かな世界。
そこには多分実際的に「魔術」が働いていて、
「害悪」や「穴」によって破られるまで、
確かな結界によってマリーは守られていた。
でもおばあちゃんを失い、結界が壊れた後、
急速に彼女の目に映るものが変化したのは、
単に結界がどうのというだけではなく、
いつかクリスティーネが言っていたように、
その日マリーが幼年期を脱したからなんでしょう。
そしておそらくその瞬間は「約束」のとき。
自分の未来を担保に目の前の誰かを救うには、
その未来を自分自身が確かな手触りで認識しなければいけない。
未来とは衰えや死を確実に含むもので、
それを確かなものとして肯定したからこそ、
マリーは子どもから「女」になったのだと思う。

いまだ成熟しない中間の時代を許されないマリーとは対照的に、
成熟できないことを悩むディッキーには、
「少女」の欠片ももたないように見える女たちは、
おそらく絶滅危惧種の「少女」たちと同じくらい、
クリーチャーに見えていたのではないかと思う。
それはどんなに近づいても、肉体的に接触しても、
理解できない、理解されない対象で、
年齢云々ではなく、おそらくディッキーにはマリーも理解できない。
それでもなんとか彼女たちの求めに応じようとする姿は、
悲しく滑稽に見える一方で、「大人」の振る舞いでもある気もした。
内心「衝動」や「情熱」みたいなものがないと自覚しながら、
場や人間関係を傷つけないための振る舞いをする。
それは少女たちが仲間うちでからからと笑い合うのと、
それほど違いがない。ああ、だから「青年」は少女の末裔なのか。
女子高生がそうであるように、
多分彼らは世間や彼ら自身が考えるよりも大人なのだと思う。

ブルースカイが語る最後の三日間。
三日間、とは言っているけれど、
その風景はそれ以前と変わらない全くの日常で、
三日で区切ることには意味はない気がする。
ただ大切な人たちとの大切な最後の瞬間を数えたとき、
三日、という日数になっただけなのだと思う。
終わる前に思い出しておきたいような大切なものは、
今日の後ろ三日程度に含まれているのかもしれない。
結局どれくらいの時間、というより回数、
ブルースカイが逃げ続けたのかは分からないけれど、
累計すればそれはあの三日より長い時間のはずで、
それでも彼女は「最後の三日間」と言う。
時間を越える旅の中で出会った人たちとの絆を思いながら、
けれど彼女の人生の最後の三日間はあの日々。
強化老人たちは恐ろしいけれど、きっと正しい。
彼女が死ぬべき場所はあそこしかなかったのだと思う。

時間軸上では寸分の狂いもないのだろうけれど、
なぜに老人たちは彼らを上空に投げ捨てるのか。
美しい情景は、妙に粗い仕事でできている。

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テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


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