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2012.08.06 (Mon)

ミュージック・ブレス・ユー!!


ミュージック・ブレス・ユー!!
(2008/7/1)
津村記久子

ここではない場所に行くための、
たくさんの扉が用意されている。
今を振り切るなんて、
簡単なことなのだ。

選ぶことそのものが、
ただどうしようもなく覚悟を必要とするだけ。


【More・・・】

高校生は忙しい。
勉学や部活動の重みは人によって違うけれど、
それ以外の営みを平和にこなすだけでも、
生半可じゃないエネルギーを必要とする。
そうなる原因は多分「将来の可能性」で、
確定しない未来が待ち受けている、なんて希望は、
つまるところ今はまだ確かに掴めるものがないということ。
一年先自分がどこにいるかも分からないのに、
その日のために努力せよと言われても、
素直に頷くことなどできない。
でも先を全く見ずにいられる胆力もない。
そのもやもやを払いのけてくれるものを、
男子も女子もなく、一人ひとりが探しているのだと思う。
自分のその頃とは違うものをそれと思うアザミと、
そのアザミに似ていると思われるトノムラ。
異なる経験の中にいるのに、二人をとても近しく感じた。

耳にヘッドホンやイヤホンを装着して、
音楽を聴きながら通学する高校生は多いけれど、
自分も高校生だったときは、
彼らが外界を拒否するために耳を塞いでいるように見えて、
正直なところ気に食わなく思っていた。
やがて自分も音楽を携帯するようになってみると、
電車に揺られているとき、漫然と歩いているとき、
音楽があるとないでは、見えるものが違うことや、
ある方が思考しやすい場合もあることに気づき、
漠然と彼らを疎んでいたことを恥じた。
そんな経緯の上でアザミのことを見ると、
常に音楽とともにあること、
というより誰かが発した言葉や音に触れることは、
歌う者と聴く者の一対一の関係に集約されるのだと思う。
思考するため、あるいは聞かないために聴く自分は、
多分アザミのようには音楽に触れていない。
彼女と音楽の間には何かが挟まる余地がないように見えて、
そんな風に聴ける人間が少し羨ましい。

アザミ自身は最低だと言っているけれど、
うすらぼんやりとした割り切れなさを感じながら、
それでもなんとか世界と自分を擦り合わせようする感じや、
友のため、なんて明確な意識もないまま、
怒りを表明する勇気を振り絞る感じを、
とても好み、もとい、好ましく思った。
場に合わせて笑ったり、無為な言葉を吐いたり、
そういうやり方は多分あまり誠実ではないんだろうとは思う。
でも、一見直観的に生きているように見えるアザミは、
思考のあとに、そうしている。
嫌われたくないとかそういう気持ちの反射としてではなく、
してはいけないこと、言ってはいけないことを考え、
それではないものを選んだ結果として、笑う。
彼女の言動の無意味さやその場しのぎ感は、
努力と思いやりに裏打ちされているように思う。
だからと言って他人にはそんな裏側は分からないわけで、
単に調子のいい、さばさばした女にしか見えない。
その擦れ違いの中で調子悪くなって、
あちこちぶつかったりアホをやらかすアザミかわいい。

長身に赤髪に派手な歯列矯正器に四六時中のヘッドホン。
悪目立ちではアザミが圧勝だけれど、
中程度の優等生ポジションのチユキの方がよほど、
思考回路がぶっ飛んでいるように思う。
閉じ込め事件やガムの件、さらにはタバコ。
彼女の内面が描かれるのはオギウエと相対したときだけで、
実際何をどう考えて行動しているのかは分からないけれど、
ガムの件でのアザミとの話から考えると、
おそらく彼女は気持ちと行動が、
最低限の常識を経由しただけの状態で直結していて、
「しょうもない」ことには報いを与え、
友を痛ませているものには是非も知らず行動を起こす。
衝動的と言えばその通りで、
でも彼女はちゃんと言葉を持っているように思う。
行動の理由を衝動なんていうブラックボックスに放り込まず、
その回路自体が若干どうかしていることを知りながら、
こうこうこういうことなのだ、と説明することを厭わない。
その答えをちゃんとは理解できなくても、
「なんで?」を受け入れ答えてくれる彼女だからこそ、
アザミはチユキのために怒り、虚勢を張るのだと思う。
見送りの潔さに、傍で泣きかけた。

どうしようもい男どもばかりのなか、
モチヅキの善良さにほっとした。
ハリガネでもリテーナーでも、いい男だよ君は。

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テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


19:44  |  津村記久子  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

ミュージックブレスユー、わたしのお気に入りの一冊です
あっこ |  2016年04月03日(日) 23:13 |  URL |  【コメント編集】

●Re: タイトルなし

>コメントありがとうございます。時々読み返したくなる一冊ですね。
あこん |  2016年04月07日(木) 14:27 |  URL |  【コメント編集】

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