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2012.08.22 (Wed)

外天楼


外天楼
(2011/10/21)
石黒正数

集合住宅では、
同じ造りのたくさんの部屋の中に、
それぞれ異なる時間が詰め込まれる。
お隣さんの生活はお隣さんのもの。

壁一枚床一枚で、
けれど物語は隣り合っている。


【More・・・】

食品の成分表示の中に
「遺伝子組み換えでない」という一文を見つけると、
悲しいような滑稽なような気持ちになる。
人の利益のために学者たちが頑張った結果が、
当の人の社会に受け入れられていない雰囲気。
新しい技術や革新が受け入れられるためには、
相応の時間と努力が必要で、
その努力を行う人たちにとって最も厄介な壁が、
おそらく「倫理」なのだと思う。
それを盾にされてしまえば、
打ち砕くことも、正面からぶつかることもできない。
それを選んだ瞬間、悪のレッテルを張られるのだから。
精々できるのは、別の「倫理」を掲げることか、
「倫理」なんていう不定形の盾の非合理を突くことくらい。
もちろん、新しい技術の活用は慎重であるべきで、
科学的検証と改善は常に行われなければいけないけれど、
科学を否定するのに、倫理なんて武器を持ち出すべきじゃない。
なんて、「科学」もまた「倫理」と同じ一つの信仰だと、
分かっていながら、人間的には最低の極みの鬼口を、
討論会の場面だけは肩を持ちたくなった。

第三話の終盤までは短編集のような顔をしておいて、
そこから徐々に繋がりを見せ、
最終的には一つの話にしてしまう手腕が、
手練れすぎて悔しくなるくらいだった。
読み終わってすぐに再度細かく読み込みたくさせるわ、
読み直せば読み直すだけ発見があるわ、
本当に丁寧に作ってるんだなあという感じがする。
鰐沼家の話として見れば、
救いはいずこと叫びたくなるような展開なのに、
その間にエロを求める小学生たちのミステリ、
桜場刑事のアホの子さ全開の暴走、
劇と劇中劇の度重なる反転などなど、
笑って呆れて感心できる話を差し込み、
シリアスな話をしている間にも、
たとえば芹沢がおでんを食べるスピードが異様だったり、
鰐沼博士の変装に誰も突っ込まなかったり、
石黒さんは細かいネタと笑いを挟み込むことで、
真面目な話をする気恥ずかしさを紛らわせている気がする。
そんな読み方もまた楽しい。

アリオ、キリエ、鬼口博士の中では、
残念ながら鬼口博士のことが一番理解できる。
科学者としての執念や欲求、不満、
父親としての娘への愛情と、
娘に連なるものでありながら人ではないキリエへの恐れ。
博士を破滅的な方向へ突き動かすものは、
人でなしのくせにひどく人間的に見えた。
健全な小学生男子の時代や、
古い友人とのやり取りを見ていると、
多分アリオもその出自に関係なく、
普通の人間、少なくとも人間もどきのロボットとは、
一線を画す精神性を獲得しているのだと思う。
人を元に作られたキリエと、作った鬼口と、
そのキリエから産まれたアリオ。
培養液の中で生まれ、成長を止め、
体の性質や表情に乏しい顔だけを考えれば、
キリエだけが人とは呼べないような気もするけれど、
きっとそんなことはない。ないと信じたい。
S12-M0201の愛シテイマスと、
彼女が「アリオ」と呼ぶ声はきっと違う。

阿呆な話の中では桜場刑事の暴走がとても楽しかった。
下井の事件ではミステリ狂かと思ったけれど、
彼女はミステリに限らないドラマ性全般狂なのだと思う。
人が死ねば謎、トリック、陰謀、アリバイを求め、
取り調べ室にはカツ丼と落とし話が必要で、
犯人と対峙するのは人情刑事か探偵の役目。
そんな風に事件を捉えてばかりなので、
解決の助けには全然ならない。
でもそれがドラマ好きの延長だとしても、
卑劣や残酷を憎む彼女の単純な正義感のようなものは、
人とは命とは何か、ロボットの心とは、と
社会がより複雑になっているこの世界では、
多分とても持ち続け難いもので、
それはときに殺人や謀略の殺伐を切り払う、かもしれなかった。
山さんの無念の表情にたまらなくなる。

エロ・カーストなんて、
素敵に悲しい言葉を思いつくだけで、
キリエは人間だと主張したい。

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テーマ : 漫画 - ジャンル : アニメ・コミック


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