2017年09月 / 08月≪ 123456789101112131415161718192021222324252627282930≫10月

2012.08.24 (Fri)

スクールアタック・シンドローム


スクールアタック・シンドローム
(2007/6)
舞城王太郎

暴力の連鎖は、
どこででも起こる得る。
個人的な憎悪と結びつく必要はなく、
人はたやすくそれに感染する。

それを止めるには、
ただもう一心に人であろうとするよりない。
怯えた獣になってはいけない。


【More・・・】

無力とは何もしないこと、
非力とはしようとした上で何も成せないこと、
罵られるなら非力の方がマシだと、
そんな風に自分を奮い立たせようとしていたのは、
ちょうど杣里亜や徳永と同じ年代で、
多分そんなことを彼らの前で言おうものなら、
鼻で笑われるか、一回死んでみろと言われると思う。
上の定義に従えば、徳永も杣里亜も非力で、
杣里亜の現実をどうにかすることはできず、
できる限りの努力は全く意味をなさない。
ただ方法はある。状況を変える道は確かにある。
徳永が杣里亜のために死ねば、
少なくとも杣里亜が殺され続けることはないだろうし、
杣里亜が母の愛や家族を諦めれば、
そもそもこんな状況になりはしなかったかもしれない。
道があるのにそれを選ばなかったのだから、
そこから派生するあらゆる状況は受け入れるべき、なんて
責めるにはあまりに杣里亜の状況は酷く、
徳永は多分友だちでさえない杣里亜のために頑張ったと思う。
杣里亜の中にある彼岸の美しさが悲しかった。

表題作他二篇から成る短編集。
「ソマリア…」以外の二篇は「みんな元気。」で読んだはずだけれど、
全く記憶に残っていないので初読ということにしておく。
「スクールアタック…」は現実の事件を思い起こさぜるを得ず、
そこからの報道や社会全体のヒステリックな雰囲気と、
あ行の3人が起こした事件の規模を考えれば、
暴力が伝染する、という感覚は分からなくはない。
報道一つ、ショッキングな映像一つで、
おそらく簡単にそれは伝染する。
それは暴力的表現に触れたから、
自分も誰かを傷つけたくなる、発散したくなるなんて、
そんな阿呆のような論理では全くなく、
むしろ暴力を恐れ、怯え、何かを守ろうとする結果として、
暴力とは呼べないものに過剰に反応し、
防衛が新しい暴力になってしまう、ということ。
天谷たちに続くようにして起こる事件を、
「俺」が怯えるクマたちの防衛だと感じるのには、
なるほど、とすんなりと納得した。
でも人は人を殺してはいけないことになっている以上、
クマは人に留まる努力をしなければいけなくて、
崇史は15才にしてちゃんとそれを知っている。

「スクールアタック…」に続いて「我が家のトトロ」も、
父親たる「僕」が普通の父親から、
というよりは一般的な成人男性から遠い場所にいる。
そのことで娘息子が虐められたり、
歪んだりストレスを感じたりしている、ということを、
見ないフリをせずにちゃんと理解し、
同時に子供のことを理解しきれないことも納得する分だけ、
そうではない親よりはマシなのだろうと思うけれど、
「僕」の場合も「俺」の場合も、
家族の人員に求める関係の対等さが、
すぎる感じがしてどうかと思ったりもした。
親が子の目線になって考えたり、
自分の考えを押し付けないことが親子に必要だとしても、
逆方向で子も親のことを同じよう考えるべき、というのは、
内藤先生の言う通り、親のすることではない。
家族の支え合いに対等さは必要ないのだと思う。

杣里亜は多分誰にも愛されていなくて、
彼女のために命を張ってくれるような人間は、
少なくとも生きている人間の中にはいない。
あの日杣里亜を助けられなかった徳永も、
あの日の後も杣里亜と付き合い続ける智春も、
すぐにでも彼女を苦しみから救える方法を知りながら、
決してそれを実行することはないのだと思う。
そこには「死ぬ前に生き返る」超常現象が効いていて、
いっそそんな現象などなければ、
一回目の食べられる日に徳永に救われたかもしれない。
でもそうすると、そもそも徳永も智春も彼女のことを知らないまま、
智春が首をへし折った時点で終わりだったわけで、
やはり生き返った方がマシだったのか。
でも、生き返らなければ食べられることもなかった。
そんな風に杣里亜に救いを見出そうとすると、
結局のところ、一回目で死んでしまうか、
あるいはもっと早くに決定的な崩壊が訪れるか、
いずれにしろ彼女は「幸せ」や「愛情」を知ることがない。
徳永が見る希望は、罪悪感の覆いでしかない気がする。

太陽色をした猫はトトロ。
なんて素敵な心の軋む音。

スポンサーサイト

テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


15:27  |  舞城王太郎  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://acon6960.blog40.fc2.com/tb.php/452-5fed311e

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |