2017年11月 / 10月≪ 123456789101112131415161718192021222324252627282930≫12月

2012.08.25 (Sat)

春の数えかた


春の数えかた
(2005/1)
日高敏隆

太陽だろうが月だろうが、
人の考えた暦は、
どうにも不完全だ。

種の数だけ、
体に備え付けられた時計。
その正しさと柔らかさには敵わない。


【More・・・】

たとえば気温、湿度、日長なんかの、
無機的な気候要素だけが外界に忠実に再現される、
そんな空間に閉じ込められたら、
人は季節を感じることができるんだろうか。
凍えたり汗が噴き出すくらいになれば、
ある季節が「終わった」ことは分かるかもしれない。
でもおそらく春の始まりを感じることや、
秋の終わりを知ることはできなくなると思う。
まあ、そもそも季節というやつは、
今日から!というはっきりした境目がないし、
人はそれほど季節性のある生活史をもっていないので、
結局は精神衛生上良くない程度のことなのかもしれない。
ただそんな仮定を考えてみると、
人が季節を感じることの大部分は、
目に触れる自然の変化に依っているような気がしてくる。
草花の変化、虫の声、山海空の色合い。
植物や昆虫が棲んでいるのは上の仮定のような世界であること、
にも関わらずの彼らの「時計」の性能の話を読んでいて、
手持ちの時計の脆弱さが恥ずかしくなった。

開花開葉、冬眠打破などに必要な積算温度のことや、
イレギュラーも含めた季節変化に対応し得る進化と戦略などなど、
ほぼ聞きかじりのまだらな知識、など必要なかった。
そんな半端な知識は疑問を発する回路を鈍らせる気さえする。
はるか高みの専門家でありながら、いや、だからこそなのか、
草花の花の高さ、ときには地を這う虫の歩み、
そんなものと共に書き手の視点はいつもあって、
頭の中には疑問符と感嘆が入れ替わり立ち替わり浮かび続けている。
時代は大分ズレているはずなのに、
「科学はなぜを問うてはいけない」というようなことは、
実際耳にしたことのある言葉で、
それに納得できない若き日の書き手の手を取りたくなった。
科学が明らかにできるのは「どうやって」だけだというのも、
分かるような理屈ではあるしけれど、
自然の挙動に対する疑問の基本は、やはり「なぜ」にあるとも思う。
なぜ虫は光に集まるのか。なぜ同種の花は同じ高さに咲くのか。
その疑問を発するとき知りたいのは、
虫の目の光反応や茎の伸長の仕組みではない。
躊躇なく発せられる「なぜ」が気持ちいい。

鱗翅学会学会長やらホタルの会会長やら、
多分書き手は昆虫方面が専門なんだろうけれど、
世界のあちこちに出向いたときの感動は、
昆虫に留まらず、あらゆる事物に向けられているように思う。
それは動植物である必要さえなく、
現地の風俗だとか都市化の状況だとか、
はてはスリッパだのシャワーだの、
と思えば網を取り出して蝶を追いかけ始めるし、
途中からその思考の展開を追うのと同時に、
大抵のものに興味津々でそわそわしてばかりの、
書き手の動きを見ているのが楽しくなってしまった。
経歴や肩書きを拝見する限りでは、
優秀かつ人をまとめられる高性能な学者様なのに、
それこそ季節の変化に誘われる動物のように、
合間をぬってフィールドに出たがる様子を見ていると、
色んな立場から下ろして野に放ってあげたくなる。

数十年前には考えられなかった方法で、
長年の不思議が解決されたりするのが学問のようで、
なのに身近な自然の中にさえ、
いまだ人の理解が追いつかないことがたくさんあるらしい。
分からない、と言ってしまうことは、
学者にとってはいわば敗北宣言のはずなのだけれど、
現状で正直に白旗を振ることもまた、
研究を人生にするのに必要なことなのかも、と思った。
人の思考能力は無限かもしれないけれど、
思考から結果を得るには部品や道具が必要で、
事象を理解するための絶対的なそれが欠けているなら、
どうやったって納得できる答えにはたどり着けない。
在るように在るそのままで問題なく動いている系を前に、
ああ分からない、と思うことは、
「なぜ」という最初の問いと同じく、
事象、つまり自然に対する感嘆符なのだと思う。
同時に「いつかは」という宣戦布告だと思えば、
学者という生き物に親近感が湧く。

「鳥たちの合意」での「民主主義」。
「帰りたい」が感染する様子が可愛い。

スポンサーサイト

テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


16:53  |  日高敏隆  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://acon6960.blog40.fc2.com/tb.php/453-555bad4b

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |