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2012.08.27 (Mon)

猫と庄造と二人のおんな


猫と庄造と二人のおんな
(1951/8/25)
谷崎潤一郎

注ぐ者と、
注がれる者がいて、
それで世界が完結しているなら、
乞う者は、どうすればいいのか。

手に入らないと分かっている愛を、
諦めるには、どうすれば。


【More・・・】

好かれるための努力というやつは、
往々にして見苦しいし、
「努力」と見破られた時点で、
それが功を奏する可能性はより低くなる。
見破られず、けれど効果的に、
好かれるよう持っていくのは大変難しくて、
そんなスマートなやり方は誰にでもできるわけじゃない。
それでも、好かれたいと願う気持ちが、
羞恥心やら自尊心やらを押しのけてしまえば、
見苦しさなど当人には問題ではなくなるのだと思う。
女たちは庄造に愛されたいと願って画策し、
庄造は猫に愛されたいと願って身もだえする。
猫は決して求められたようには愛を囁かないのに。
彼らの見苦しさや滑稽さは、
求める愛が与えられないからこそのもので、
残念ながら博愛が聖人だけの持ち物である以上、
きっと私も彼らの相似形なのだと思う。
愛を「乞う」とは、さもあらん。

猫、庄造、福子、品子、の愛憎は、
残酷なくらいはっきりと階層化されていて、
その見事なまでの一方通行っぷりを見ていると、
愛というやつは有限なのだなあとつくづく思う。
捧げた分だけ、示した分だけ、
頭のどこかにストックされた愛は減る。
あるいはもしやその泉自体は無尽蔵で、
それをそこから汲み出すための、
体力や気力の方が削られていく、ということなのかもしれない。
いずれにしろ、無駄撃ちしていては、
早晩疲れ果ててしまうものだと思う。
だから、リリーはもう庄造に媚びないし、
庄造は品子目的には塚本家を訪ねはしない。
憎くは思っていなくても、
もはや愛を示さねばならない相手ではないから。
与える側に限界があることに輪をかけて悲しいのは、
求める側にはほとんど限界がないこと。
外側からの声など届かない。

人間三人の関係、それぞれの性質を考えると、
どうしようもない順に福子、庄造、品子だと思う。
品行の悪さは差っ引くとしても、
汚れ物を押し入れの隅につくねておく、とか
嫁以前に子供でも引っ叩かれるレベルでしょう。
本人の質以外は満点の嫁を放してはならない、という、
お母さんの考えも分からないではないけど、
あの場面の対処に関しては息子が正しいと思う。
一応嫁に対してそんな正しい判断ができて、
それなりに行動力もあり、物腰の柔らかさもあり、
庄造も別にどうしようもない男では多分ない。
猫を偏執的に溺愛している、と言っても、
猫飼いからすれば、まあ普通の愛し方だと思う。
リリーに関するエピソードは直にやられたら、
別段猫好きでなくても、放しがたくなる気がする。
実際品子だってリリーの可愛さにやられているし。
そんな自分にとって唯一と言ってもいい猫を、
嫁と対立する面倒を嫌って手放してしまう辺りで、
男的にも猫飼い的にもこの男を見下げ果てた。

三人の中では一番まともに見える品子も、
思考回路だけは聡明なまま、
見事に現実が見えていない状態になっていて、
大して好いていたわけでもない庄造との、
居心地の悪い暮らしになぜそこまで固執するのか、
「嫌われたわけではない」なんて幻想を抱いて、
有り得ない将来像を追う彼女を残念な気持ちで見ていた。
とはいえ、人の都合で唐突に家と主を替えられたリリーと、
姑の思惑で家を追い出された品子が、
過去の対立関係を解消して一部屋に住まう情景は、
ひたすら穏やかで心休まるものだった。
リリーが若い溌剌とした猫ではなく、
老いの色が濃くなり始めた雌というのも、
哀れな女が二人肩を寄せ合う感を強くして、
だからこそ庄造が目にした柔らかな部屋の様子が、
捨てたものと捨てたくなかったものの両方に、
今度は逆に捨てられたのだという確信になり、
庄造の必死さが一層滑稽だった。
捨てられる覚悟もなく捨てるからそういうことになる。

畜生に焼餅を焼くことを、
恥ずかしく思うことはないと思う。
多分あいつらはそれを承知で動いている。

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