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2012.08.28 (Tue)

黒祠の島


黒祠の島
(2007/6/28)
小野不由美

罪を贖うことなど、本当はできない。
それは個々が負うべきもの。
罰はただの背負子だ。

罪人には死を、なんて、
時代遅れの不合理だろう。

そんな言葉が意味をなさない島で、
余所者に何が為せるのか。


【More・・・】

情状酌量というものが、
法律上でどういう扱いなのかはよく知らない。
テレビドラマや細切れの報道の印象では、
罪を犯さざる得ない事情や環境が考慮されて、
罰が減じられる、ということなのだと思うけれど、
馬頭鬼の裁きに支配された島で繰り返される、
「罪と罰の帳尻」という言葉を聞いていて、
結局のところ、禁固何年懲役何年という罰は、
メソポタミアの人々を支配した理の代替なのだと思った。
目には目を、なんて法で縛られた社会は歪だと唱えながら、
もし殺人者が罪なき人を殺したのと同じ方法で殺されたなら、
おそらくこの島の人間でなくても、
殺された人殺しを擁護する言葉は勢いをなくす。
因果応報とか、そんな便利な言葉で、
新たになされた殺人に目をつぶってしまうかもしれない。
けれどせめてそれは最初の殺人の罪が確定した上でのこと、と
思いたいけれども、多分それだって必要条件じゃない。
状況に忌まわしいものから目を背けたい気持ちが加われば、
罪と罰の帳尻はひどく簡単に合ってしまうのだと思う。

地域全体が敵かのような状況で、
そこから浮き上がっている人間が事件を追う構図から、
つい「屍鬼」を連想してしまい、
いつ式部が背後から襲われるのかヒヤヒヤしていたけれど、
徐々に関係者が口を開き始め、
一連の事件の発生は共同体にとっても喜ばしくない、
どころか困惑の対象なのだと分かってからは、
冷静に式部と一緒に情報をつなぎ合わせて
全体の画を完成させるのを楽しめたと思う。
志保の失踪から始まった事件は、
一世代も二世代も遡って古い因縁につながり、
最終的には最初の地点に戻った、という感じで、
決着のつけ方としてはそれほど意外でもなかったけれど、
その過程で、徹底的に島とは無関係だったはずの式部が、
「馬頭鬼」の裁きの論理に捕らわれているのに気づいた瞬間が、
陰惨な殺人の場面よりも恐ろしかった。
馬頭は地獄の獄卒であり、地獄とは罰を受けるところ。
人が地上にどんな法を敷いても、
死後に待っているのは、どこまでも単純な天秤で、
それが現世に立ち現れただけなら…、なんて
解豸の理屈に、私も惹きつけられている。

余所者、という言葉が何度も使われる。
それは単に島に縁のない者を指すときもあれば、
真相からの距離を基準に区別されるときもある。
島の要たる神領家の縁続きであった以上、
二人の女は単なる巻き込まれた者とは言えないのかもしれないけれど、
それでもやはり彼女たちのどちらにも、
あんな目に遭わなければいけないような非はなかったのだと思う。
余所者とはつまり、「島の」核心からの遠い者のことで、
要は島に下した根の深さが問題なんでしょう。
「永崎麻里」も「羽瀬川志保」も、
まだ子供の時分にその根を引きちぎって、
島の外に別の確かな根を下したのだと思う。
彼女たちはそう在ろうと努力して、実現させた。
ならば、いくら家の相続問題の中心に名があろうと、
二人は余所者で、余所者に解豸の理屈は通用しない。
式部というイレギュラーを呼び寄せてしまったのは、
余所者を解豸の手で葬ろうとしたせい。
殺人者がそんなことも理解していなかったのなら、
解豸はとうの昔に神領家では死んでいたのかもしれない。

神領家を動かしている理屈は、
それが殺人さえ飲み込む隠蔽体質や、
系図や人間関係の歪みになっていることを考えると、
現代において存続していくことは難しいと思う。
式部は半分島に飲み込まれながら、
事件が終わってしまったと感じているようだけれど、
「永崎弁護士」が悲惨な形で死んだことは事実で、
外部に対してそれを隠し続けようとしても、
小瀬木さんや、何よりそんな形で片割れを失った志保が、
彼女の死を放置したままにするとも思えない。
式部がこの先どう判断して動こうと、
そう遠くない将来、島は崩壊する気がする。
それはつまり神領家と「解豸」との誓約の破綻で、
罰を与える者としての役目を奪われたとき、
多分彼女は鬼に戻ってしまう。
理屈で制御されていた衝動が解放される。惨劇が起こる。
そこまで想像して、神領家のしきたりは、
伝承の通り無辜の民と、
哀れな鬼を守るためのものだったのだ改めてと思った。
地獄への道は…、言うだけ空しい。

「…違うのですか?」と問いかけたとき、
そこに不安と同時に微かな期待を見た。
人の姿をした鬼の、その揺れが悲しかった。

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