2017年09月 / 08月≪ 123456789101112131415161718192021222324252627282930≫10月

2012.09.09 (Sun)

ノーライフキング


ノーライフキング
(2008/8/4)
いとうせいこう

呪いはささいなことから始まる。
一つの言葉、一つの遊び。
輪の中で回された分だけ、
それは濃縮され、劇薬に変わる。

自ら作り出した呪いから、
世界を守るため、
子どもたちは戦った。


【More・・・】

世界は閉鎖系なのだと思う。
終わりがないという意味では、
無限の広さをもっているようにも見えるけれど、
それは単に円の構造をしているからそう見えるだけ、
より正確には、水揚げ用の網の構造なだけのこと。
ネットワークの端と端がつながっているから、
たどる道筋は無数にあっても、出口はない。
「世界」を「人間関係」と置き換えるのは、
乱暴な論法だろうとは思うけれど、
友達の友達の友達・・・の六人目で、
世界の人間全部をネットワークで覆えるなら、
あながち的外れでもないかもしれない。
閉じた世界、閉じた人間関係、
それは一人の例外なく組み込まれ、循環する系。
そこにあるのは安心か、あるいは絶望か。
子どもたちの「死」に、確かにその両方を見た。

インターネットでの世界の広がりとか、
それが社会にもたらしたものがどうとか、
そういう話はまあ横に置いておくことにして、
どれだけ世界を広げられる可能性が増したとしても、
結局自分の行動に影響を及ぼすのは、
自ら取捨選択したものと、
直接的に触れるものだけなは実感するところで、
電話と噂、わずか数文字の通信で繋がるガキも同じだった。
望まれないものは見ない。見ても染みこまない。
「ノーライフキング」という呪いのようなものを、
否定し無意味にしてしまう情報は、
たとえ世間全体がそれに感染していたとしても、
ゼロなわけはないし、むしろそこかしろにあったはずで、
にも関わらず、呪いが止まらないのは、
その中心たるまことたちがそれを望まないから、だと思う。
なぜなら、呪いを始めたのは彼ら自身で、
もはや呪いは世界と不可分になってしまったから。
実際に人が死んでも止まれないのは、子どもだからか。

小学四年生くらいの頃、
色々と好きなものも夢中なものもあったけれど、
まことたちのような熱を注ぐ対象はなかった気がする。
だから正直に言えば、彼らにかけられた呪いも、
それに翻弄される大人たちの困惑も、
いまいち理解できなかったように思う。
多分まことたちが一番軽蔑の目を向けると思われる、
「たかがゲーム」的なことさえ思ってしまう。
一方で、そんな外側からは「たかが」と言われるようなものが、
狭い場所でぐるぐる回ることで濃縮し、
本来の形を歪めていく過程はよく分かる。
噂は真実に、すれ違いは敵対に、たやすく成長する。
そういう風に考えて思い出せば、
まことたちと同じ年代に、わがクラスにも「戦争」があった。
いじめではなく、ただもう単純に大将もなくクラスが二分して、
休み時間ごとにひたすら殴る蹴るを繰り返したのもので、
発端は遊び、たかがごっこ遊びだった。
その時の顛末を思えば、子どもの危険な熱を沈静化させるのは、
それがたとえ恐怖由来でも、大人の義務だと思う。
ならば引き起こされた死の責任は、それに失敗した大人にある。

大人に嘘をつき、いじめっ子に虐げられながら、
それでもまことたちが「ノーライフキング」クリアの道を探るのは、
自分たちのことを理解しない親をはじめ、
好きな奴ばかりではない周囲の人間を守りたいからで、
呪いが単なる自分に不幸をもたらす類いのものだったなら、
学校生活と家庭生活の両方を崩壊させてまでして、
ゲームクリアを目指したりはしなかったと思う。
呪いがそこまで拡大した段階で、
そもそも子どもたちは自分がクリアすることを忘れ、
ただ誰かがそれに至ればいいと思っている。
「ハーフライフ」と「賢者の石」は、
自分の周囲の世界を守りたいという思いと、
呪いを終わらせたくないという欲、
けれど死にたくないという気持ちが混ざった結果なのだと思う。
そのどの思いも、正しいか正しくないかは別にして、
ひどく純粋で、子どもらしい。
だからこそ「賢者の石」の記述に迷う子どもの姿は悲しい。

望月のいじめは目に余るけれど、
キングの呪いの中で一番冷静だったのは、
この子だったと思う。

スポンサーサイト

テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


23:13  |  あ行その他  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://acon6960.blog40.fc2.com/tb.php/458-cf9e59f7

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |