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2012.09.25 (Tue)

スワロウテイル


スワロウテイル
(1996/7)
岩井俊二

胸に蝶を一匹縫い付けて、
女は「円」が牛耳る街で生きている。

その国にいる資格をもたなくても、
居場所はそこにあった。
バカ騒ぎと暴力、猥雑なあの街に。


【More・・・】

今の生活がどうしようもないものだと、
他人から言われるのではなく、
自身がそう感じているとき、
生活を変えるためにまず何から始めるべきか。
食事、生活雑貨、部屋、仕事、街?
と考えてみて、変えたいと思うものが大きいほど、
切羽詰っている程度は深刻で、
実際変えられるもののサイズが大きいほど、
その人の生活には余裕があるのだと思う。
生活とは多分、目指して至るものと、
消去法や一択のみの選択の結果として、
はめ込まれてしまうものとがある。
後者は、そこから抜け出すのがとても難しい。
他に住むところがないからそこに住み、
他に仕事がないからそれを生業にする。
イェンタウンに生きる多国籍の人々の生活は、
ほぼ全員がそういう風に形成されたものだから、
今日を変えることさえできないのに、
「夢」を語るヒョウが不思議でならなかった。

兄が墓荒らし、妹が売春をやっているフニクラ兄妹は、
望んだ暮らしではないという意味で、
喜ばしい状況ではないようのだと思う。
そこに来て殺人にまで関わってしまったら、
もう悲惨なことになるしかないような気がして、
店やグリコの成功の様子を嬉しく見つつ、
いくら華々しい逆転劇が展開されても、
破滅の日が近づいていくる圧迫感にそわそわした。
そうしてやはりその日はやってきて、
金と権力の圧迫が暴力になって周囲一帯を薙ぎ払う。
たくさん死んで、生活の場を破壊されて、
結局グリコはデビューすることもないまま、
また一人のイェンタウンに戻っていく。
と、全体の流れをざっくり通してみると、
何の救いもない物語のような印象になるけれど、
それぞれのシーンでは絶望などほどんと感じなかった。
むしろ一つの学園生活を覗いているようで、
ずっとこのままならいいのに、と思ってしまう。
各々の悲惨を無視して、羨ましくさえなる。

出自も経歴も違う、たまに言語も通じない人々が、
お互いの深部に踏み入ることなく、
それでもその場その場で確かに笑い合える、
そういう繋がり方に対する羨望があるから、
それぞれの生活が泥水をなめるようなものでも、
あの空き地でのバカ騒ぎが幸福なもののように見えてしまう。
だから、グリコを送り出したあとに、
思った通り店が壊れていくのを見ながら、
さっさとみんなヒョウの店に戻ればいいのに、と思った。
でも、楽しい頃に戻ってほしい気持ちとともに持っていた、
店の崩壊に巻き込まれてほしくないという思いは、
全くもって甘かった。激甘だった。
たとえ店から離れ、身を隠したところで、
彼らを守ってくれるものなど存在しなかったのだと思う。
権力や「円」に雇われた者たちは、
イェンタウンに発砲するのに全く躊躇しない。
情報だけを吸い上げて、蜂の巣にする。
あの温かなお祭り騒ぎは、
彼らの利用価値のなさを前提に続いていたのだと、
無残な血煙の中で思った。

グリコとフニクラの傍にいながら、
難を逃れ、生き延びたアゲハという少女。
イェンタウンで生まれ育った子供なのに、
彼女は普通に怯え、足を竦ませる。
リンたちがプロだとすれば、
彼女の周りにいる大人はアマチュアばかりだから、
阿片街や銃撃戦なんてのは異世界なのだろうけれど、
グリコがも生き残った状況も考えると、
異常な事態に怯え、脅威を避ける触覚を持っていることが、
プロでもなく上流階級でもなく、ただの底辺として
猥雑な街で生きていくのに必要なスキルなのかも、と思った。
欲をかかず、危険を避け、自分の力を弁える。
そんな姿勢では上にいくことは多分できないし、
そんなでも時には気まぐれに踏みにじられもするだろうけれど、
生き残こる可能性は格段に高くなる。
目の前で血を噴いて倒れる大人をたくさん見て、
その中で生き残った自分を発見して、アゲハは多分学習した。
這いつくばるか、プロになるか、
こういう場所ではどちらかしか生きぬけないのだと。
どちらを選んでも大変美味しい展開になるなあ…。

ただのハゲタカ的記者かと思ったら、
思いのほかの根性と機転で生き延びた清子に痺れた。

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