2017年09月 / 08月≪ 123456789101112131415161718192021222324252627282930≫10月

2012.10.11 (Thu)

眼の奥の森


眼の奥の森
(2009/5)
目取真俊

沖縄で何が起きていたのか、
知ることはできるかもしれない。
語られることを記録し、
記録を継承し続ければいつかは。

記憶は、置き去りにして。

【More・・・】

目をそらしてはいけないと思いながら、
考えるのは辛い、というより億劫で、
そう思ってしまうこと自体が、
世代を経ることによる忘却の表れなのだから、
せめて次の世代に手渡すことだけはしなくてはと思い、
けれど何を知っても聞かされても、
結局当時の何を理解できるわけでもないと思ったり、
「戦争の話」に触れることには、
後ろめたさと義務感、そして無力感がいつも伴う。
多分今は当事者から話を聞ける最後の時期で、
なお一層耳を傾けねばいけないと思うのに、
いじめを行うあの子どもたち程度にさえも、
自分はそれに触れてはこなかった。
もちろん身近な上の世代に話をせがんだこともない。
けれど、沖縄の小さな島の記憶をゆっくりと飲み込みながら、
「戦争の話」は記憶そのものではないのだと強く思った。
語ろうが語るまいが、記憶は失われていく。遠のいていく。
物語の生々しさにえづきながら、
それでも戦時下の小島は、はるかに遠かった。

占領下の小さな島で起きた一つの事件が、
その関係者あるいはそれ以前の傍観者の中に、
意識を向けただけで叫び出すような記憶として残っている。
人生全部をその記憶に飲まれた人がいる一方で、
大多数はそれから目をそらして戦後の60年を生きていて、
語ることはおろか思い出すことさえしていない。
そうするうちに記憶はボロボロと崩れていくけれど、
島に戻ること、わずかな繋がりに触れること、
あるいは語ることを求められることで、
乾物が水にもどされるように劇的に、
彼らの意識がそこに戻っていくことが、空恐ろしかった。
記憶は崩れて、改変されて、
事実からの距離は確実にひらいているのに、
当事者でさえなかった、意味も分からなかった事件の記憶が、
60年を経ても重みを失っていない。
あの浜辺での出来事はそれほどまでに、
無差別に広く周囲を傷つけ苛んだのだと、
特に当時ほんの子どもだった者たちの言葉を聞いていて思った。
そんな爆心地がどれほどの数世界中にあるのかと思うと、
目がくらむような気がする。

記憶も同時に掘り起こされる思いも常に己を中心にしていて、
唾棄すべき人間は視点を変えるごとに変わる。
もちろんそこにどんな思いがあろうと、
米兵の行いが許されるわけではないし、
小夜子や盛治の人生が変わるわけではない。
銛の切っ先を子へ託す行為は、
グロテスクで悪趣味な感傷にも見える。
でも仇に一人向かっていった盛治も、
非道を働いた米兵も、それを見ていた誰も、
みんな無力感を抱えていたのだという気がした。
同じ無力感、では多分ない。
守れなかったこと、抗えなかったこと、
衝動を止められなかったこと、そして死ねなかったこと。
それは記憶の上に積み重なった後悔というよりは、
その時感じ、記憶とともに埋められていた思いなのだと思う。
それ以外にどうしようも出来なかった、
仕方がなかったのだと何度も繰り返しながら、
誰に許されることもない地獄を想像する。

小夜子に起きたことが全ての中心になっていて、
それは視点を変えて、様々に語られる。
家族という立場で、日々今の小夜子と接していてさえ、
事件を知らない相手にそれを語るとき、
小夜子という少女は沖縄の悲劇の中に投影されて、
彼女の彼女たる部分はそぎ落とされているように思う。
別に語る誰のことも責めているわけではなく、
記憶を伝えるために語る、というのは、
元区長が思いの何も伝えられないと思っている通り、
どうしてもそういうことなのだと思った。
同時に米兵に乱暴されて人生を狂わされた少女の物語は、
今も生きてものを思う小夜子という女性の話であることは変わらず、
たとえ本人がそれを関知しないとしても、
その事実が語られ続け、思われ続けることは、
事件の性質から考えても、ひどいことであるようにも思う。
ならば語らず忘却することが最善かと言えば、
それ以外に60年前の沖縄に触れる方法がない以上、
どうしろとも言えなくなってしまうけれど、
それもまた悲劇の一部なのだと安易に納得したくもない。

60年前事件によって満身創痍だった子たち。
それとは無関係に、今一人で苦しんでいる女の子。
子どもの心に気づくことの困難に呆然とする。

スポンサーサイト

テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


23:38  |  ま行その他  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://acon6960.blog40.fc2.com/tb.php/466-d8e203e5

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |