2017年08月 / 07月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫09月

2012.10.17 (Wed)

カササギたちの四季


カササギたちの四季
(2011/2/19)
道尾秀介

家財道具、DVD-BOX、置物、
漫画各種セット、ギター、名探偵。

当リサイクルショップは上記商品の他
修理技術保証付きのワトソンくんもおいてます。


【More・・・】

物語上の「探偵」の役割は、
読者に真相を示すことだけれど、
それは全てを白日の下にさらす、ということではない。
重要なのは読み手にそれが理解されることで、
それで用が足りるなら、仄めかす程度でいいし、
登場人物たちにとっても彼が「探偵」である必要はない。
華沙々木は菜美にとっては名探偵で、
事件の関係者にとっては多くの場合ただの第三者、
読者にとっては愛すべき道化、
そして多分「探偵」たる日暮くんにとっては、
二重の意味で指針なのだろうと思う。
用意すべき小道具を決める脚本家として、
また真実を塗装することを是とするための良心として。
誰に何をどこまで明らかにすることが最善なのか。
その難しい線引きを、華沙々木は自分の性分を抑えながら、
日暮くんは自分にできることを弁えながら、
二人の探偵はとてもうまくやっていると思う。
商品の売買交渉でも同じくらい見極めができれば、
2年連続の赤字も多少マシになるだろうに。

別に探偵社や便利軒を名乗っているわけでもなく、
行く先々で人が死ぬパラドックスに呪われているわけでもなく、
普通にリサイクルショップを営業しているだけなので、
日暮くんがたびたび夜っぴて工作に追われたり、
ときには軽犯罪を犯さねばならない事態になるのは、
7割までは華沙々木という男の性分のせいだけれど、
残りは過剰に菜美の心を思いやる日暮くん自身のせいだと思う。
「南の絆」での事件の顛末と真相を考えると、
日暮くんが過去の自分と菜美を重ねて、
彼女のためにできることをしてやりたいと思うのは、
ごく自然な心の動きだろうけれども、
その先、華沙々木のヒーロー像を無理に守って、
そうでなければ彼女が壊れてしまうかのように思うのは、
明らかに過剰、というか勘違いも甚だしい気がする。
菜美は自分の家で一連の騒動が起きたときには、
もしかしたら名探偵「華沙々木」を本当に信じたのかもしれない。
でも2年、いやほぼ3年という時間は、
女の子を成長させるには十分に長い時間で、
それに気づかない二人は合わせて道化に見える。

華沙々木が作り出すストーリーは、
日暮くんが対処する現実よりもドラマで、
でも、登場人物たちの悲しみや、
どうしようもなさみたいなものは現実より少ない。
悪意のある見方をすればそれは、
人の心に鈍感とも言えるのかもしれないけれど、
宗珍と菜美の遊ぶ様子を見ながら泣くような男は、
基本的に現実がドラマのようだったらいいと、
思っているというか、おそらく信じているのだと思う。
事件は起きるけれど、名探偵が真相に気づき、
暴くべき悪事は摘発し、秘すべき事実は胸に収め、
エンディングが悲しみを洗い流してくれる。
現実には早知子の無力感も美菜の家庭の問題も、
ほとんどの問題は何も解決していないし、
華沙々木が信じているような美しいドラマなど、
そもそもどこにも存在していないのだから、
華沙々木のやっていることは自己満足でいかないのだけれど、
名探偵(=自分)を菜美より信じてきっている28歳男、悪くない。

「蜩の川」は、華沙々木の描いたストーリーの方が珍しく悲劇的で、
しかも珍しくありそうな話ではあったのだけれど、
真相の方の他人には手を出せないどうしようもなさに比べれば、
後味はよほど名探偵の話の方がよほどいい。
好きで始めて、才能を認められつつあって、
なのに続けていけなくて辞めたいと思う早知子は、
好きでもないことで生計を立てている人や、
好きなことを努力しても認められない人からしたら、
怒りを買っても仕方がないわがままでしかない。
好きで仕方がないならば、環境になじめないことくらい、
どうとでもなる問題のような気がする。
だから多分早知子は最初から木工など好きではなくて、
単に人と違う自分になりたいがための選択だったのだと思う。
きっと早知子自身もそうだったことに気づいてしまって、
だからこそその中途半端さに嫌気がさして、
これ以上進むことなどできないと思ってしまった。
そんなに中途半端なのが嫌ならば、
せめて辞めるときくらい自分で切らなければ、
おそらく同じことの繰り返しになる。
日暮くんは励ますよりその辺諭すべきだったと思う。

自分のために嘘をつくこともできず、
他人の大事なものを大事にでき、
宗珍、パーフェクトだなあ。

スポンサーサイト

テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


14:47  |  道尾秀介  |  TB(1)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://acon6960.blog40.fc2.com/tb.php/468-eb300507

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

「カササギたちの四季」道尾秀介

開店して2年。店員は2人。「リサイクルショップ・カササギ」は、赤字経営を2年継続中の、ちいさな店だ。店長の華沙々木は、謎めいた事件があると、商売そっちのけで首を突っ込み...
2012/11/02(金) 15:26:12 | 粋な提案

▲PageTop

 | BLOGTOP |