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2012.10.19 (Fri)

もいちどあなたにあいたいな


もいちどあなたにあいたいな
(2010/1)
新井素子

どんな言葉が最後の言葉になるか、
そんなものは本当に分からない。
「おはよう」かもしれないし、
「ばか」かもしれない。

これが最後である可能性を、
頭に置いて生きるのは辛い。
だから忘れたことにして言うのだ。
できるかぎり軽々しく、なんでもない顔をして。


【More・・・】

たまの徹夜明けの朝に感じる疲労は、
単なる体力的な問題ももちろんあるだろうけれど、
昨日がまだ終わっていないような、
あるいは24時間前も今日だったような、
そんな意識が途切れず続いていることによる疲労な気がする。
普段は精々18時間程度で一度休息に入るものを、
24時間、48時間・・・と連続使用すればそりゃ疲れる。
一度眠って、再起動しなければとても保たない。
けれど眠る前と後が連続しているとは限らないのなら、
とても安心して目を閉じることなどできないのだと、
エピローグで繰り返される和さんの怯えの言葉を聞いていて思った。
もしも眠らなくても身体が保ってくれるなら、
多分和さんはずっと眠らずにいたいと思っている。
そうすれば、これ以上の漂流は防げる。
今まで失ってきた世界には帰れないし、
これから起こる不幸は全て自分の事になるけれど、
それでも今日と明日が連続しているならば、
幸福を感じ、それを失って泣くこともできるのだから。
恭一の腕をそっと噛む和さんが悲しい。

真相があまりに現実離れしたSFなものだから、
いつも気づく役回りらしい澪湖でさえも、
多分おばさんの身体の異変を目にしなくては、
実際に行動に出るまでには至らないのだと思う。
最初の「玉突き事故」が起こったのが骨折の時だとして、
少なくとも6回はおばさんは入れ替わっているのに、
真帆ちゃんが死ぬまで、この世界の澪湖は気づかなかった。
いつも気づいてくれる、と言っても、
時系列から考えて澪湖が気づけるのは多くて3回程度で、
兄・大介も常識的な範囲で妹の異変に気づいているけれど、
結局澪湖に踏み込まれるまで考えることを放棄している。
誰が気づいたところで出来ることはない。
でも別の人生を歩んできた、本当に別人だと言うのに、
入れ替わっていることに気づかれないことの悲しみを思うと、
たとえ気づかないのが自分の関わってきた人たちではなくても、
それは前にここに滞在していた「和」という人間が、
その程度にしか理解されていなかったことの証左なわけで、
自分自身が前の「和」とディテールだけが違う別人であり、
周囲の人間もまたそうであることも考え併せれば、
人が人を好きだと言うことのその大ざっぱさ、
幻想を抱き合う虚しさ、それだけで事故を起こしそうになる。

和さんの悲しみと寄る辺なさを思うと同時に、
この二家族が抱えるひずみがあまりにありふれていて、
つまりは生々しくて、軽い語り口のくせにヘビーだった。
陽湖の中に溜まりに溜まっているものは、
ちゃんと本人が半分気づいているように、
和さんへの憎しみなんかではない。
結論が「離婚」に至っているのからも明らかなように、
一部は社会全体に拡大しているけれど、
基本的には全く自分を正当に扱わない家族への不満で、
聞いているだけで辟易とするような言葉が続くのだけれど、
でも一つ一つのエピソードをなぞる限り、
確かに陽湖の言い分は大いにもっともで、
しかも、子どもの病気で仕事を休まねばならないこととか、
家のことに関して役に立たない男どもとか、
子どもの養育に関しての姑との対立とか、
どれをとってもどこの家庭にもありそうなことで、
つまりそういうエピソードに心当たりがあるということは、
その「母」は陽湖と相似かもしれないということになる。
別に何をしたわけでもないのに、申し訳なくなった。

和さんの助けには全くならなかったものの、
木塚くんの活躍には何だかとても胸が熱くなった。
澪湖の混乱した頭の中を整理するために、
オタク的教養やら推理力やらを駆使しているらしいけど、
支離滅裂で信じがたい話を察し、理解する力の大元は、
他人を軽んじないというごく当たり前でありながら、
完全に維持するのがとても困難な姿勢である気がする。
具体的に何オタなのかはよく分からないけれど、
何か本当に好きなものがあるからこの人が怖いのだと思う澪湖は、
とても的確な指摘をしていると思う。
おそらく中高生の頃はその「怖い」が嫌悪感や軽蔑になって、
周囲からは疎まれがちだったんだろうに、
いいオタ仲間を持ったのか、あるいは根っからこうなのか、
木塚くんはたとえ自分のようでもそうでなくても、
他人が一生懸命に主張することに対して、
頭ごなしに否定するような人間にはならなかったのだと思う。
世界の意思やら名探偵やらという発言は、
こんな状況だったら誰しも、いや少なくとも私は言いたいことで、
その点での同類としてひいき目になっていることもまあ認める。
「オタクを莫迦にするな。世界一繊細な人種だぞ。」名言。

惚けてしまったおばあちゃんに対して、
澪湖が感じている別世界へ行ってしまった感は、
自分の知る祖母に今の状態を上塗りしたくないがための、
単なる卑怯な現実逃避だと思う。

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