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2012.10.28 (Sun)

陽だまりの彼女


陽だまりの彼女
(2008/4)
越谷オサム

きみのためにできることは、
なんだってしよう。
となりに立つためなら、
どんな苦労にもたえてみせる。

確かな足場の上に立つ彼らだから、
言葉は正しく響く。


【More・・・】

一目惚れというのは多分ある。
出会った瞬間、目が合った瞬間、
恋に落ちてしまう。試合終了。
恋とは何ぞやを明確に定義できない場合には、
そういう始まり方にはロマンがあるけれど、
誰かを好きだと思うことには、
理由や背景、積み重ねがあって欲しいとも思う。
「君を好きな事に理由なんかいらない」なんて、
そんなのは踏み板が透明のつり橋を渡れと言うようなもの。
どれだけ強固な愛だろうと、信じるのは難しいし、
渡り始めても不安はなくならないでしょう。
運命的な再会、まあ実際は違うのだけれど、
とにかくそこからの二人の関係、
互いにとって相手が唯一無二だというような関係は、
ロマンそのものな恋の要素が盛りだくさんでありながら、
過去と現在に確かな、目に見える基盤もあって、
だからこそそうでない二人だったら白けそうないちゃつきも、
まあこの二人なら、と微笑ましく思える。
陽だまりのある部屋でいつまでも二人は。
そんな結末でも充分だったのに。

中学生の頃は全く冴えなかった女の子が、
できる女になって帰ってきて、しかも自分にべた惚れ。
というだけの話だったら反吐を吐くところだったけれど、
真緒と浩介の過去のエピソードが掘り起こされるにつれて、
現在の彼らの関係、積み重なっていく時間が、
他人の話でありながら愛しいもののように思った。
しかも虐められ軽んじられていた頃の真緒に対して、
浩介は自分が及び腰の姿勢だったこと、
彼女を助けられず、むしろ勝手に救われていたこと、
そういう負い目をちゃんと自分の中で整理して、
真緒との間で消化していることがとても好ましかった。
それを今さら掘り起こして互いの間に晒さなくても、
おそらく真緒は変わらず浩介に好意を寄せ続けるだろうし、
晒したところで過去は何一つ変えられないのに、
現在の彼女に劣等感を抱きながらも、
対等でありたいと思ってそこから逃げない姿勢は格好いい。
まあ成人してからの様子を見る限りでは、
キレたら怖い子、というのもあながち間違いではない気がするが。

一方真緒の側からこの13年を見ると、
最後に明かされた背景をふまえるかどうかで、
好意の意味、その起点の部分ずれはするけれど、
基本的にはそれがあろうとなかろうと、
真緒にとって浩介が唯一の人なのは変わらないのだろうと思う。
中学の頃、体に見合った分の人生をもたない彼女が、
何であれ人並みに行動するのは大変なことだったはずで、
その苦労と虐げられる悲しみの両方を和らげ、
結局最後まで決定的に拒否することだけはしなかったというだけで、
人生を始めたばかりの真緒にとって、
浩介がかけがえのない人になってしまうのは道理で、
ただそれが恋愛というところまで踏み込んだのは、
むしろ浩介の方が最初だったように見えた。
真緒の努力が実り出したあの日、
初めてキスをしたあの時に、多分真緒の中の浩介は変わった。
動物がよくしてくれる相手に懐くようにではなく、
伴侶になり得る相手として認識した。
そうして相手のために何かしたいと願ったからこそ、
対等になるために、真緒は努力し続けたのだと思う。
妬けるねえ、全く。

本来は真緒が存在している事の方が不思議現象で、
消えた後の世界は元に戻っただけなんだろうと思う。
彼女の存在は最初から浩介に依っていて、
彼女の心もきっとそうだったのは疑いようがないけれど、
一社会人としての周囲からの真緒の評価や、
消失後の両親の様子を見ていると、
彼女が一人の男のためだけではなく、
ちゃんと現実の社会に適合し、
愛されて存在していたのだということがひどく嬉しかった。
浩介と接触することがなかった10年間、
苦労して苦労していっぱしの人間になり、
特に大学生の頃には楽しいこともたくさん経験して、
そうして最初の場所に辿り着いた彼女の頑張りが、
たとえ最終的には浩介一人の中にしか残らなくても、
その10年間は決して無意味ではなかった。
二人の子どもを残すことは出来なかったけれど、
彼女が救ったしゅう君の人生はこれからも続くわけで、
こういう命の繋げ方も確かにあるのだと思う。

三つ目がその形なら、
九つ全部使い切って最期はともにいられるだろう。

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