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2012.10.31 (Wed)

箱庭旅団


箱庭旅団
(2012/6/8)
朱川湊人

日常から離れ、
旅先で目にするものは、
風景以上の意味をもたない。

そこから一歩踏み出したとき、
途端それは物語になる。
旅する者自身の物語に。


【More・・・】

劇的なことなど起こらない一日を、
ただ積み重ねていくだけのことでも、
ごくありきたりの小さな悲しみや寂しさが
やがてどうしようもない重しに変わって、
ついには当たり前を続けていくのが難しくなる。
日常というやつは安心や平穏なんかと同時に、
そういう毒みたいなものを含んでいて、
それにやられてしまわないためには、
フィクションが、つまりは物語が必要なのだと思う。
映画でも活字でも漫画でも音楽でも、
他人の物語、他人の心を描き出すものは、
1ミリも離れられない自分のそれを薄めてくれる。
物語の効用は少なくとも私にとってはそういうことで、
その意味で、白馬に乗った少年との旅は極上だった。
恐怖、郷愁、喪失感、愛しさetc.
他人の物語だからこそ全身で寄り添える感情が心地よい。

あらゆる世界の別なく旅する少年と白馬、とはいうものの、
どうやらそれは物語が違えば姿や役割を変えるものらしく、
ちょこちょこと現れる「白い馬」の存在は、
ああ、今はそこにいるのか、というような安心感、
別世界を繋ぐ縦糸を見つけたような共犯者感を催させ、
今度はどこにいるのだろうかとわくわくもさせられた。
全くの傍観者のときもあれば、
彼や彼女の物語の起点になっているときもあり、
いわゆる歴史の傍観者、神のような存在ではなく、
興味の赴くままに他人の世界を覗き見て、
言ってしまえば無責任に去っていく足取りは、
まさに「旅行者」のそれだと思う。
「唯一無二の宇宙真理」を理解したあの少女も、
白馬と少年と同じような存在なのだろうけれど、
「箱庭の外へ消失した少年」や
「唯一無二の本に魅入られた少女」もまた、
彼らが旅する世界の中の一つ、物語の一つなわけで、
ああ結局彼らは箱庭の中にいるのか、と思うと、
世界は無限だと言うフクロウにそそのかされても、
自ら旅に出るにはその広さに足がすくんでしまう気がする。

少年が目にした物語世界は、
少年の存在を別にして、いくつかが明らかに繋がっていて、
「デコちゃん」にとっては完結した物語が、
別の時空間で別の物語の一部として続いていることや、
『「Automatic」のない世界』のように、
パラレルワールド間の行き来がときに可能なことを考えると、
世界はやはり己のそれ一つなんだろうと思ったりもするけれど、
その『「Automatic」のない世界』は同時に、
世界の趨勢と個人の感得するところの世界が、
決定的に隔たっていることを示している。
37番目の世界の宇多田ヒカルがなぜその曲を出さなかったのかは、
その世界の彼女の問題のはずで、
なのに全然関係ないはずのNさんの家庭は全く別物になっている。
つまり、『「Automatic」がない』と定義づけられる世界は、
Nさんの選択とは全く関係なく、そう在る。
それは自分の関われない場所で全部決定されているような、
そんな気持ち悪さがあって、読み終わってうへえとなった。
一つの可能性として宇多田ヒカルがAかBかでAを選択した世界が、
Nさんがαかβでαを選択した世界と同一だと考える、
要は世界を構成する全員の選択の結果がその世界だと思えば、
何も気持ち悪がることも憤ることもないのだけれど、
どちらにしろ、平行世界など知りたくもない。
それにしても最近それ関連の本ばかり読んでいる。

全体として黄昏のような寂しさが残る話が多かったけれど、
「藤田クンと高木クン」はその中で妙な存在感を放つ話で、
全編が二人のぐだぐだした会話のみ、
少年の影も一応あるという程度の、ただの怪談話。
朝起きたらガンダムが銃を向けているだの変な声が聞こえるだの、
一つ一つをとれば実質的な被害がない普通に怖い話で、
その原因である「古い墓場を工事で荒らした」というのも、
使い古されまくったオチではあるのだけれど、
二人の結論「霊的なものが学生全員を追い出しにかかっている」というのが、
二重になんとも可笑しい。なんだそれはと思う。
近所の霊的なものvs界隈の大学生という構図は、
大規模な公共工事に対する住民の反発のようでもあり、
平成たぬき合戦を思い起こせば、微笑ましくも見える。
また、そういうことなんだろうなーとぼんやり感じて、
怖えなーとか思いながら、二人は全く真剣にそれを取り合う気がなくて、
つまり霊たちの攻撃は全く功を奏していないわけで、
この会話を彼らが聞いているとしたら、
多分どうしようもなく脱力してしまうだろうなと思う。
大学生を相手に非道になりきれないまま対抗しようとする時点で、
残念ながらあなた達に勝算は皆無ですよと言ってあげたい。

宇宙真理がいかなるものかは知らないが、
空間をぺらっぺらの書き割りのように、
無造作にめくるのはやめてほしいです、マギー嬢。

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