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2012.11.15 (Thu)

朝顔はまだ咲かない 小夏と秋の絵日記


朝顔はまだ咲かない
(2007/8)
柴田よしき

扉の外に化け物はいない。
ごくありふれた危険があって、
人が、他人が、いるだけ。

群れの中で生きるには、
何が必要なのだろう。


【More・・・】

時間がもつ力は絶大だ。
ある問題がそれで解決することや関係が壊れること、
人の内部でのそういう変化は、
残酷に、優しく、抗いようがなく、起こる。
物理的、内部世界的いずれかに関わらず、
多くの存在が何らかの形で時間に影響されることは確かで、
不変でいられるものなどいくらもないのだろうけれど、
一方で時間でも立ち入れない不可侵の領域もきっとある。
いつまでもうずき続ける傷と鮮明なまま美しい思い出は、
多分心の中の同じ場所に収納されていて、
時間の流れから取り残されたその場所にあるものを、
どうにかしたいと望むのならば、
他人にも時間にも触れられない以上、
今、自分が、どうにかするしかないのだろうと思う。
小夏を部屋の中に留めさせていたのは、
そういう場所にできた傷だった。
ああこれだ、と気づいてからの行動の早さと強さに、
彼女が4年半の間停止していたわけではないことに気づいた。
そうやすやすと絶望なんかしてやらない小夏に脱帽する。

外に出なくなり始めた頃に小夏が調べたように、
一概に「ひきこもり」と言っても、
状態も理由も、その終わり方も千差万別で、
外に出なくても生きていくことが不可能ではないのなら、
その状態が悪いと外から言うこともできない。
でも少なくとも小夏は、
外にでなければいけない理由が分からない、と嘯きながら、
穀潰しや邪魔者、なんて風に自分を言い表したり、
外に出ることを前進だと捉えたりしている。
つまり、今の状態を変えるべきだと、変えたいと思っている。
「4年半」が相対的に長いのか短いのかは分からないけれど、
10日ほどで諸々に変調をきたした経験から言うと、
その間ずっと世間や何より自分自身というものを、
諦めず、見捨てずにいられるというのは凄いことのように思う。
それは彼女自身の地のたくましさに加えて、
周囲の人間がごく自然に彼女を肯定していることが大きい気がする。
母親はもっとゆっくりでいいと言う。
友は軽やかに笑いながら外の香りをさせて傍に居続ける。
ファインダー越しに美しいものとして自分を見てくれる人がいる。
自分を見捨てずにいるためには、それが何より大事なのかもしれない。

秋がなぜ小夏から離れていかないのか、
具体的なエピソードは示されない。
小夏が秋の中にみている「正義感」のようなものは、
玄関で泣いたという秋の涙の理由にはなるだろうけれど、
その後せっせと小夏をかまい続けるのは何なのか。
何か思惑や事情があるのか、と思ってから、
きっかけさえあればその後の付き合いなんて、
友だちだから、で充分だよなあと思い直した。
いや、それも正確な言い方ではない。
多分秋は友だちだからひきこもりの小夏を構うのではなく、
ただ、友だちに「ひきこもり」という属性がついている、
くらいの認識でいるだけなんでしょう。
それはたとえば友だちが近眼だとか高所恐怖症だとか、
秋にとってはそういう程度の留意事項で、
その程度のことだという風に扱ってくれるから、
高所恐怖症の人に展望台へお遣いを頼むようなことを言われても、
小夏は傷つく前に呆れたり怒ったりすることができるのだと思う。
気持ち悪いと言ってくれる友人は貴重だ。

好きです、となんの飾りもなく言う巽くんは、
双子の弟とは違う影のある雰囲気や、
何が真っ当なことなのかということに対する感覚を、
ちゃんと自分の中に確立していながら、
それを実行するのに足踏みをする感じ、
にも関わらずの大胆さと率直な物言い。
総合的に言って、これは惚れるよなあという男だった。
月の下で炊事するホームレスの女性の背景に、
のっぴきならない事情をちゃんと了解した上で、
その姿を触れてはならない神獣のように見るなんて、
そうやって見惚れるこの人を遠くから見たくなる。
巽くんはひきこもりではないけれど、
カメラとの付き合いについて語ったことから見ると、
小夏と巽くんはかなり近い場所に立っている気がした。
二人に共通している、何かを通さなければ、
世間と向き合うことができないという感覚は、
その遮蔽物の向こうにあるものに対する嫌悪などではなく、
むしろ愛したいと思う気持ちが前提になっている。
間に何も挟まず、向き合える相手と二人が出会えて良かった。

小夏の男女の付き合いに対する考え方は、
まあ確かに古臭いとも思うけれど、
カマトトも死語に近いと思うぞ、秋。

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