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2012.11.25 (Sun)

炎の蜃気楼38 阿修羅の前髪


炎の蜃気楼38 阿修羅の前髪
(2003/7/1)
桑原水菜

逝く者が残される者に、
何かを強制することはできない。
先に対するどんな言葉も虚しいだけだ。

男は選択する。
絶対の彼ではなく、
自分との対話の末の答えを出す。
やっとそこに、戻ってきた。

【More・・・】

希望というのは希な望み、
つまり叶わない前提のもの、と思っていたのだけれど、
調べると「希」には「こいねがう」の意味もあるらしく、
そう見ると強い意思が宿る言葉に見えてくる。
「希う望み」が希望であるならば、
それは「ある」ものではなく「抱く」ものなのかもしれない。
生存の定義も死の意味も、
もはや常識とは大きく違ってしまっているから、
生きていること、死なないこと、が
彼らにとっては究極的な「希望」にはなり得ないけれど、
直江が布都御魂に見ていたものは、
二重の意味でまさしく「希望」だったのだろうと思う。
自ら見つけ出し、希であることを認め、
それでも信じ、意思をもって突き進むための道標。
死屍累々の悪路の果てに望みが潰えた後、
高耶と直江の間に流れるつかの間の静穏を見ながら、
いい加減この二人許してやってほしいと切実に思った。
そんなこと直江は望まないだろうし、
高耶は許さないだろうけれど、そうしてやって欲しい。
どんな名の駅でもいいから、直江の夢が現実になるといい。

とまあ普段は基本小太郎押しながら、
今回ばかりは直江と高耶が哀れ過ぎて一瞬宗旨替えした。
全体の戦況としては斯波英士、カオルの肉体が死に、
ごちゃごちゃだった怨霊同士の衝突が二派に整理され、
黄泉では礼とばあちゃんが頑張って帰神を進めてます、という感じ。
失意に浸っている時間なんかあるわけもなく、
四国編を彷彿とさせるような組織的合戦の構図になって、
今空海になってからの仏の顔を捨てた高耶の様は、
悲壮ながら、懐かしいものであるようにも思った。
一人の高校生としての「仰木高耶」と、
冥界上杉軍総大将、夜叉衆の頭でもある「上杉景虎」、
二つの魂が混じり合ったものが赤鯨衆の仰木で、
だからこその今空海でもあるんだろうけれど、
やはり高耶は熱を帯びて戦う者の姿が似合う。
それも、死の定義や有象無象の現代人なんてものじゃなく、
直江とは違った意味で唯一無二の相手である信長に、
足元から這い上がるように噛みついていく姿がいい。
要するに、久しぶりの合戦に燃えました。

信長が望む世界を構築する過程で、
たくさんの人間が様々な方法で騙され利用され、
そして役目が終わって捨てられて、という目にあっていて、
闇戦国の始まりに深く関わるヒルコ、那智の者たちは、
その最たるものには違いないのだけれど、
自身の体と一緒に「父」を殺したカオルを見ていると、
自分のために利用するという非道ではあっても、
信長が利用しているもの、利用される者の感情自体は、
捏造されたものなんかではなく、
被害者の中に確かに存在してするものなんだと思った。
もちろんその怒りや憎悪を生む出来事そのものに、
信長の印象操作や虚偽が含まれていることが多いから、
それを理由に被害者に罪を負わせるつもりはないけれど、
人を踏みつけて立つ魔王であるにも関わらず、
虐げられる者、軽んじられる者、奪われた者など、
自分の足元にいる人間の感情を、
それを十二分に利用できるほどに理解していることと、
カオルへかけた言葉を併せて考えると、
なんだか稀代の魔王を近くに感じてしまった。

とりあえず肉体をどうにかすれば、
勢いで調伏までいける、なんて考えはやはり激甘で、
ボスを倒した後に裏ボスがでてきてギャー的な展開になり、
まあその場で哲也あたりが換生されなかっただけ良しとすべきか。
でも次の換生体についての信長の選択は、
考え得る中で高耶たちにとって最悪だったんじゃないかと思う。
戦況という点でも、呪法の成阻止就という点でも。
せめて憑依だったなら、と思うけれど、
魔王がそんな優しさを披露してくれるわけもなく、
純血の那智の少女・礼の体は魔王のものになり、
黄泉で奮闘している霊体の方の礼は帰る体を失った。
その上信長に完全に勝利するには、
礼の体を殺した上で調伏するしかなく、
高耶勢には身を切るような選択になるのは目に見えていて、
隆也が妹のことで後悔しているように、
魂が換わった体の命は誰のものなのか、という問題に、
礼の体の信長に相対する者は答えを出さなければいけなくなる。
考えれば考えるだけ、先が暗澹としたものに思えるなあ。

桃太郎か、と前回思ったけれど、
今回本文に出てきて思わず噴いた。
動物勢がさらっと都合が良い体に換生し直した中、
ミニスカ女子を選ぶ小太郎格好いいぜ。

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