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2012.12.10 (Mon)

ムーンドロップ町のかしこいうさぎさん


ムーンドロップ町のかしこいうさぎさん
(1984/3/25)
しばたひろこ

季節のお祭り、なんでもない日。
二人でおでかけ、二人で一人ずつ。
本が届いた、小麦粉がない。
お話を紡ぐ日、伝承に招かれる日。

かしこいうさぎさんが作るシュークリーム香る、
ムーンドロップ町はどこにあるんだろう。

【More・・・】

物語に限らず、音楽でも時間でも、
特別な一つを持てるということは、
とても幸運なことなのだろうと思う。
それがぴったりと収まる場所がある深さまで、
心の中の道みたいなものが開いている、
まさにその時にそれに出会えた幸運。
それに恵まれて、一度ぴたりとはまったものは、
いわば絶対不動の敷石のようなもので、
曖昧模糊とした精神の心強い足場になってくれる。
30年近く前に出版されたこの一冊は、
私にとってそういう敷石の一枚なのだと思う。
ムーンドロップ町のお話の中には、
強いメッセージも愛憎劇の描写もなく、
優しくて、時々悲しくなるような手触りで、
うさぎさんやテープ君たちがただ暮らしている。
現実の苦難を切り払う剣向きではないけれど、
何の疑いもなく踏み出せる一歩をくれる物語だと思う。
まあつまり、全身全霊で好きだ。

お菓子、特にシュークリーム作りが得意なうさぎさん。
小説家という名の自由人なテープくん。
基本の登場人物はこの二人で、
それ以外にムーンドロップ町に住む人たちが少しと、
一話だけのゲスト的登場人物がときどき。
うさぎさんだけ、テープくんだけの回もままありながら、
現実の風景と誰かの空想が混じったり、
ちょっと不思議な事件が起こったり、起こらなかったり。
と、なんとか全体を描写しようとして、
なんだか本当にふわふわしたお話なんだなあと再認識する。
ただそのふわふわは、触れるふわふわだと思う。
うさぎさんはまんまうさぎのファンタジー的存在だけれど、
苛ついたりがっかりしたり、悔しがったり、と
その容貌からは意外なほど波立つ心を持っていて、
むしろ人間である郵便屋さんや町長さんなんかの方が、
一つの心を取り出してキャラクター化した存在に見える。
その差はキャラクター造形の違いから深読みすれば、
うさぎさんに代表される枠外の存在の繊細さと、
彼らを生み出した側のはずの人の鈍感さ、的なことになるけれど、
そんな読みは全く蛇足だ。うさぎさん可愛い。

うさぎさんが可愛ければ、
うさぎさんが作るお菓子も毎回可愛く、
季節にあったお菓子をいそいそとバスケットに詰めて、
テープくんと出かけしたりする姿は乙女かと思うけれど、
まあうさぎさんは(多分)男の子なので、
お出かけ前のそわそわ感やはしゃいだ様子は、
単純にピクニックを喜ぶ子供のそれなんでしょう。
そういえば割とすぐ拗ねたり、意地を張ったりするし、
もしかしたら周りの町民より子供なのかも。
二等身うさぎで巨大丸メガネ装着では、
外見から年齢を推し量るのは無理だし、
町民と言ってもテープくん以外の人に対しては、
少し遠慮し過ぎなくらい丁寧で腰が低かったりもして、
うさぎさんの年齢はどうにも分からない。
ただテープくんとケンカしてしまった話や、
互いの一人の時間を尊重する話を読むと、
この二人は知り合いやただの友だちの域を一歩分ほど超えて、
より大事な相手として互いを認めているように見える。
テープくんの前でのうさぎさんのあけっぴろげさは、
気のおけない友人に対するそれ、というだけなのかも。

この一話、というのを選ぶなら、
うさぎの王さまを決めるパーティの話や、
注文していた本が届いた日のうさぎさんの話もいいけれど、
テープくんとうさぎさんがお話作り遊びをする話が捨てがたい。
適当に単語をいくつか人に言ってもらって、
それを盛り込んで短いお話を即興で作るという遊びは、
その趣向だけでわくわくせざるを得ない。
テープくんが作ったお話はさすがプロと思う前に、
いきなり足元に冷水を流し込まれたような感覚やら、
夕焼けを眺めるようなゆったりとした悲しみやら、
それからまぎれもない清々しさやら、
一気にたくさんの波を内部に巻き起こされた。
少年が顔を上げた瞬間のラストシーンは、
その詳しい境遇やその後の展開を全部蛇足にする終わりで、
こんな話をさらりと生み出せてしまうなら、
テープくんの本気小説をぜひ読んでみたい。
まあ頭の底をさらって絞り出したものよりも、
こういう風に作ったものの方が良いタイプかもだけれど。
ピンクのもこもこのお話も気になる。

雑誌掲載のみで単行本未収録の話がかなりあるらしい。
ぜひ読みたいけれど、単行本さえ絶版…。
白泉社さんによろしくお願いしたい。

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テーマ : 漫画 - ジャンル : アニメ・コミック


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