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2012.12.23 (Sun)

妖怪アパートの幽雅な日常⑦


妖怪アパートの幽雅な日常7
(2012/2/15)
香月日輪

もう死なない者、
数百年を生きるモノ、
来年高校を卒業する者。

異なる時が平行して流れるアパートにも、
春がやってくる。
別れと出会い、変化の季節が。


【More・・・】

かの「四季の歌」に歌われる四季の中で、
「根雪を溶かす大地のような」という、
冬のくだりが冬好きとして長年納得できずにいる。
根雪を溶かす大地の温みは春のもので、
雪と寒さで全てを停止させる容赦なさこそ、
冬の醍醐味だろうと思う。
なんて、屁理屈をこねたくなるのも、
春が近づくと囁かれる種々の喜びの声に、
毎年やるせない気持ちになるのも、
出会いと別れ、成長に象徴される季節を、
すんなりと受け入れられないひねくれゆえの、
まあ要は八つ当たりだということは分かっているけれど、
新しい季節に臨む夕士たち、
それを見守り、見送る大人たちの姿を見ながら、
どちらにも嫉妬に近い気持ちを抱いていては、
やはり二重にため息をつきたくなる。
何はともあれ、三年生諸君卒業おめでとう。

夕士がアパートに戻るくだりまでで、
ちゃんと一年が経過したことから分かっていたけれど、
やはりこれは永遠に同じ年を繰り返す学園漫画ではなく、
稲葉夕士を中心にした大河ものなので、
当然季節が巡り、近くにいた人が去ることもある。
とはいえ秋音ちゃんはきっとそのままバイト先に就職して、
結局アパートに居続ける的展開だと思っていたので、
さらっと四国へ旅立ってしまって、甚だ悲しい。
戻ってくるまでに二年ということは、
少なくとも高校生の夕士と暮らすことはもうないわけで、
そう考えると、感慨がないわけもなく、
本人達、アパートの住人たちがあまりに別れに潔い分、
一傍観者として盛大に別れを惜しんでおいた。
学校では千晶との問答に惚れた神谷会長も卒業。
予餞会の様子は、送る側送られる側両方の立場で沁みた。
将来への期待と不安、という言葉は陳腐だけれど、
それは送る側にもあてはまる言葉なのだと思う。
卒業の先にあり得る苦難の一部を確かに知っているから、
先生たちは大人になっていく卒業生に期待しながら、
生徒たち自身よりもその将来を心配せずにはきっといられない。
それでも笑顔で気合いを注入して送り出す。
涙腺はやはり経験によって緩むのだなあと思う。

夕士が腹の赤ん坊をかばって苦労したり(正しい記述)、
新しい修行トレーナーの猫ばあちゃんが入ってきたり、
もう死なない幽霊や長命の妖怪が多いせいで、
人間的時間経過からはズレて存在しているように見えるアパートでも、
育まれるものがあり、変わっていくものがあるんだと、
人間の側の春近しの感と同時に思った。
人と人でないものの関係は様々に語られて、
別に正しいありようというものはないけれど、
雷馬の子が孵り、化け猫が年をとり、
二十四つ子なんてものが託児所に預けられるような、
人の世界とは全く無関係に成り立っている世界を垣間見ると、
なんだかとても穏やかな、安心した気持ちになる。
僕とおじいちゃんと魔法の塔」で直接的に描かれるような、
人が知らない、人が知り得ない世界の広さに、
アパートでは夕ご飯時の肴や裏庭で触れること出来るからこそ、
夕士は木の上で、自分の心に気づいたのだと思う。
秋音ちゃんは実践の前の予習としての理論の話をしているけれど、
龍さんの言葉が実感として夕士に下りてきたのは、
今回のあの瞬間だったのかもしれない。

妖怪の世界が人の世界とは別の軸を持っている一方で、
まり子さんやるり子さん、クリなどの幽霊方は、
今はあちら側の住人でも、元・人である以上、
「生きていた頃」や「死」を過去として持っている。
どうひっくり返しも陰である「死」を越えた先で、
まり子さんの明るさや、クリの子どもらしさのようなものを、
持ち続けて、人らしく在り続けられることが、
このアパートの優しさなのだと思っていたけれど、
まり子さんの叫びに夕士と共に固まりながら、
幽霊であるということの背後に当然存在する、
無念や後悔の気持ちから目を逸らしていたことに気づいた。
多分まり子さんは今の自分の状態自体には満足しているし、
クリやタマが自分以外を選んだ理屈もちゃんと納得している。
それでも、あちらへ旅立つべき魂を引き留めてしまうほどの、
自分の生きてきた道に対する後悔が、
クリの母親のようにならず、まともな人の形を保っていても、
あんなにも生々しくまり子さんの中に残っている。
肉体を失って見方によっては不変の存在である幽霊が、
いまだ痛み、悔い、嘆く心を持つのなら、
生と死は本当に単に肉体の話に過ぎないんでしょう。
ならばきっと幽霊もまた、春を迎えることができる。

セックスの話を気恥ずかしがらず、
かつ気張らずにできる相手がいるというのは、
高校生にとって本当に貴重で、重要なことだと思う。

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