2017年10月 / 09月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫11月

2012.12.25 (Tue)

失われた楽園を求めて


失われた楽園を求めて
(1997/2)
マルセル・メーリンク

しかるべき手続きを踏めば、
血縁などなくても、
家族になることはできる。

家族でなくなったことを認めるより、
それはよほど簡単なことだ。


【More・・・】

記憶を失う、ということはないらしい。
忘れるという現象は単なる出力不全で、
全ての記憶は頭の中にしまいこまれている。
というような話を最初に聞いたとき、だから何だと思った。
喪失だろうが出力不全だろうが、
取り出せないものを持ち続ける意味はないように思うし、
いつかふいに転がり出られても、
それはそれで面倒な話になる気がする。
忘れる、というのがどういう現象であれ、
多分それを含んで始めて記憶は健全なのだと思う。
全ての経験を余すところなく覚えている人間がいるなら、
それは記憶ではなく、記録媒体だと言うサムに同意する。
主観と時間の経過によって加工や添削を繰り返されて、
それが真実だと持ち主が納得する形になったとき、記憶は完成する。
サムの空洞、リサの過剰さ、ラフの無関心。
三兄弟が見ているものはどこまでも重なり合わず、
夜の集会はただただ双子の痛みを増長させているように見えて、
愛より前に、意思もって行うべきは忘却のように思った。
多分、17才のラフが一番正しかったのだと思う。

里親の間を別々に渡り歩いた兄弟が、
9年の時を経て再会、親交を回復して、
家族を取り戻していく過程の物語、だったなら、
こんな後味にはならなかっただろうけれど、
何のために夜の集会が行われ、
その中心が誰なのか、サムが何を求めているのか、
その辺りのことが終盤見えてくると、
子ども時代に両親を一度に失った哀れな兄弟という像が崩れて、
残ったのは、衝撃を受けたその一点に囚われたまま、
少しも動けずに足掻き続ける大人のなり損ないのような三人。
両親を失った、という意味では、
三人とも同じ経験をしたにも関わらず、
それがその後にどういう形で傷になったかはそれぞれで、
そのくせ途中まで自分のそれも他の二人のそれも、
どういうものなのかに誰一人として気づいていないから質が悪い。
目に見えて深刻に見えるのは双子だけれど、
あの集会で一番きつい思いをしていたのはラフだと思う。
辛い部分を忘れてしまった弟と、
辛さを美しく塗り替えてなんとか立っている妹を前にして、
ラフは一人で家族の思い出を抱えている。
もちろんラフ自身も逃避の中にいるには違いないけれど、
「放蕩者の弟が」という言葉に「兄」を感じた。

愛、というものに対する双子の認識の違いに、
12才まではごく近似の存在だった二人が、
9年に間に全くの他人になったのだということを物語っている。
離れていても家族だ、という絆もあるのだろうけれど、
この三人の場合は両親を失ったのとほぼ同時に、
それぞれに家族というものも失ったのだと思う。
別段それは彼らの絆が脆弱なものだったということではなく、
家族と離れ離れの状態でいることが、
否応なく放り込まれた新しい生活の中では重荷で、
精々顔のない兄弟、くらいが限界だっただけ。
少なくともサムの場合はそうだったように見えた。
だからまずラフと再会したとき、
ラフという人間を知るために旅に同行したサムの動機は、
その時点ではとても正しい自己認識に依っていた。
多分サムはそのまま余計なものを差し挟まずに、
一人の男に付き合うのだと言う気持ちから始めて、
その延長線上に新しく家族を作るべきだったのだと思う。
愛は神秘的なものでなければいけないと言うリサよりは、
サムの考え方の方が馴染みやすいけれど、
愛さねばならない相手なんて、おそらくどこにもいない。
家族も全く例外でなく。

シモンと別れるかどうかというときに、
リサが「雌の虎」になったのは、
特別な相手との行為には、
何か愛の徴のようなものがあると信じているからだけれど、
それはサムが成り行きで関係をもったヴェロニカに対して、
全部済ませてから、そこに愛があるはずだと思うのと、
実のところ同じことを言っているのだと思う。
愛に対する考え方はほとんど真逆と言っていいのに、
そこに性行為が含まれたときに共通する妙なロマンチストぶりに、
この二人はやはり双子なんだなあと思ったりした。
お互いいい加減大人という年齢だし、
経験が極端に少ないというわけでもない様子なのに、
行為と愛を切り離す頭が端からないことの背後に、
両親がなぜ死んだのか、ということ、
つまりは愛と家族が殖えることに対する不安があるなら、
それは一連の傷の一部なのだろうとは思う。
しかしまあそれにしてもなあと思わなくもない。
それが正しいことかどうかは、
個々人の倫理と法律に相談するとしても、
愛の有無は成否の必要条件ではないでしょう、
などと大変下世話なことをつい考えてしまった。

地の果てのような場所での孤独な観測。
寒ささえどうにかなるのなら、
わりと魅力的な仕事に思えた。

スポンサーサイト

テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


02:30  |  翻訳もの  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://acon6960.blog40.fc2.com/tb.php/482-381abebb

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |