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2012.12.27 (Thu)

ゆずゆずり


ゆずゆずり
(2009/3/5)
東直子

どれだけの時間同じ場所にいれば、
そこは「家」になるのだろう。
あるいは「故郷」になるのだろう。

疑うべくもない根を下ろす。
その日が永遠に来ない人間もいる。


【More・・・】

生まれた場所で育ち、生きて、
その同じ場所で死んでいく人は、
現代においてはどれくらいいるのだろう。
おそらくその数は交通の発達とともに減っている。
社会情勢や思想の変化ももちろんながら、
一つの土地に根を下ろすかどうかには、
移動と運搬という物理的な要素が多分に関わっていて、
早く簡単に動けるからこそ、
住処を替える選択肢が生まれるのだと思う。
10回目と11回目の引っ越しの間、
シワスたちの暫定的な仮の暮らしは、
次に動く場所、動く時がくることが最初から設定されていて、
そういう構えで暮らすという発想自体が、
動く手段のなかった頃にはなかっただろうな、と
ずっと夢の中をたゆたっているような暮らしを見ながら思った。
動く手段を得て、土地や街を替えながら生きることが普通なら、
誰の生活も彼女たちと同じようなもの、
仮の家と仮の家の間を渡り歩いて夢を見るだけのことが、
生活というものの基本的な在り様なのかもしれない。
あ、鴨長明が良いこと言っている。

もの書きをしているシワスが目にしたことと、
そこから取り留めもなく考えたことなんかが、
特段のこだわりもなさそうに綴られる。
四人の働く女性が同居する家自体も、
何かまだらにピントが合わない場所があるような、
どうにも形の定まらないような雰囲気で、
「柚」の字を含む街までも、存在が曖昧に思えた。
シワスの語りはごく日常的、
たとえば料理中に油で火傷をして水ぶくれができたとか、
公園の草の上で本を読みながら人を観察したりとか、
そういう経験上分かる、というような物事ばかりで、
事件とも言えないような小さな事故の積み重ねで、
日常というものが形成されている風景は、
とても身近なものであるはずなのに、
なぜこんなにもシワスの生活からは、
臭いや感触を希薄にしか感じられないのか不思議だった。
仮家だから、というのも多少あるのだろうけれど、
新しい家に移っても、その感覚は変わらない。
シワス自身がそういう風に自身の生活を感じているから、
という解を思いついて、少し怖くなったりした。

シワスはものを書いたり読んだりする傍ら、
思考のわき道へほとんど躊躇せず飛び込んで行って、
わざわざ「暦考」などと銘打たないときでも、
同じくくらい何やかやと考え続けている。
大抵の場合考え始めること自体が、
せねばならない作業のわき道で、
そこから更に別のわき道に入りまくり、
結局出口は最初の場所のはるか後方という感じで、
そうしているうちに日が暮れたけどいいのか?と思ったりする。
まあ読んで書くことを仕事にするのなら、
何にせよ考えるのも仕事のうちだろうなあとも思う。
出口はわりと大局的というか概念的なところに落ち着くので、
ふむと頷いたり、そうかと首を傾げたり色々だけれど、
思考の入り口の部分、どこに引っかかりを感じるかには、
毎度毎度妙なところから入っていくもんだと感心した。
マンホールの蓋とか、転んだこととか、雨漏りとか、
改めて並べてみると、子どもの目線な気もする。
つまるところ、シワスが何者なのか掴み損ねたという話。

シワスたちがなぜ元の家を出ることになったのか、ということ以前に、
残り三人の女性、イチ、サツキ、ナナが何をしているのか、
もっと言えば最後まで三人を区別することも難しかった。
多分これらのどの要素も、全体にとって、
というか言ってしまえばシワスにとって重要ではないのだと思う。
決して同居人を軽んじているわけではなく、
四人がどういう関係なのかは分からないし、
どういう経緯で同居に至ったのかは分からないけれど、
いくつかの植物を引っ越しの共にするかどうかは考えても、
引っ越しを機に同居を解消するという考えは浮かばないのは、
シワスにとっては他の三人と暮らすことは、
考えるまでもない事項になっているからなんでしょう。
雰囲気的におそらく姉妹や親類ではないのに、
他人だったはずで、恋人でもない他人と、
ずっと一緒に生きていくことを確信できるというのは、
なんだかとても羨ましいことのように思う。
しかも単にシワスが緩い感じにそう信じ込んでいるのではなく、
四人全員がそれを暗に認め合っている。
いいなあと単純に思うけれども、
他の三人の人物像がもっとはっきりすれば尚良かった気がする。

掘り起こされた紙切れで展開する「私」の放浪劇には、
懐かしのいつどこで誰が何をしたゲームを思い出して笑った。

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