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2013.02.14 (Thu)

一鬼夜行 枯れずの鬼灯


一鬼夜行 枯れずの鬼灯
(2012/11/6)
小松エメル

権力、腕力、知力、生命力。
あればあるだけ、できることは増える。
力は可能性そのもだ。

けれど身の丈に合わないそれは、
不自由と孤独を呼ぶだけだろう。
人の両手に無限は掴めない。


【More・・・】

物語の主人公たちはふいに特別な何かを与えられる。
それは片手でビルをなぎ倒すような力であったり、
世界の趨勢に関わる運命であったり、
それから、永遠の命であったりする。
多くの主人公たちは選択の余地なく、
それを受け取ることを前提として物語に組み込まれる。
日陰の生活を余儀なくされるような力でない限り、
また本人が望んだからこそ与えられたものならば尚更、
それを拒むことは物語の上では有り得ないんでしょう。
でも「それ」を提示され、望むならばやろうと言われたとき
躊躇なく受け取ることは、現実の人間には無理なのではないかと思う。
少なくとも自分は受け取れない。
命であれ力であれ、自分の手に負えない大きさのものは怖い。
欲しい欲しくない以前に、それだけの理由だけで、
物語に参加することを拒否してしまう気がする。
生死の狭間で「否」を示した千代乃の述懐を聞きながらそんなことを考えた。
彼女の返答は藤波との絆に対して、
取り返しのつかないものであっただけでなく、
かつて同じ問いに別の答えを出した者たちにとっては、
恐らくとても痛くて、受け入れ難いものだった。
千代乃がとらわれた孤独は多分、多聞たちが人間であった頃に感じながら、
目をそらしたものだったのだと思う。

突然の出会いから、一緒に色々なごたごたに巻き込まれ、
面倒な奴に目をつけられて異界をさ迷い、
花見の席でまたてんやわんやしたりした喜蔵と小春。
その間小春は短い滞在と長いご無沙汰を繰り返してきたけれど、
小春が来ない間の喜蔵はそのご面相に似合わず、
まるで通ってこない人を待つ平安の女かという感じで、
早く喜蔵が我慢ならなくなればいいのに、と思っていたので、
今までの見栄っ張りを半ばかなぐり捨てて、
小春に対してずかずかと迫る喜蔵が微笑ましくて楽しかった。
お互いを大事に思い合っている見栄っ張り二人なら、
周りがとりなすか、どちらかが折れるしかないので、
荻の屋の妖怪たちや深雪たちにあれだけため息をつかせて、
それでも会えば小競り合いという状態だったのを考えれば、
アマビエを巡る海上合戦に巻き込まれたときの、
小春が自分を守ることを見越しての喜蔵の行動は、
かなり踏み込んで決意した結果なのだろうと思う。
実際に喜蔵や周りの者への気持ちを行動で示しながら、
それでも彼らを身内とすること、
つまり自分のことで彼らを傷つける可能性を良しとしない小春に対して、
喜蔵が示したものは、本当にこの男の最大限で、
これで覚悟しなければ、鬼だろうが猫だろうが男が廃るでしょう。
連判状がこんなに温かなものに思えたのは初めてだった。

アマビエ、枯れずの鬼灯をめぐる一件は、
水辺の妖怪たち、謎の老女、多聞や青鬼の動き、と
人妖合わせて様々な思惑が絡んだ末に、
争った妖怪たちには妖怪たちの、
同じものを異なる方向から見ていた千代乃、藤野、多聞、勘介にも、
それぞれ別の着地点が示されて、
その一つ一つ、特に千代乃と多聞に関しては、
何かもっと別の何か、と思わずにはいられなかったけれど、
一つの答えで個々の気持ちを平らにして終わらせたりせず、
痛くてもやりきれなくても、
他人の気持ちに寄りかからずに答えを出す姿勢は、
人も妖怪も、その狭間にある者も関係なく恰好よかった。
長い時間をそばで歩んできて、
基本的には多聞の決定を重んじる点は一致していても、
多分四朗と勘介はずっと別々の視点を保ち続けていたのだと思う。
千代乃と出会ったのは四朗だったけれど、
もしあの日勘介の方が海に投げ出されていたとしても、
千代乃と藤波のそれと同じ物語にはならなかった。
「多聞の手下の二人」それぞれの濃い影にはっとした。

猫から化け猫になり、今は鬼である小春が、
一体どれくらいの強さなのか今いち分からないけれど、
少なくとも荻の屋の妖怪たち程度は軽く蹴散らせて、
天狗と青鬼にはあともう一歩で、
百目鬼にはどうやら全く敵わない、くらいの模様。
弥々子にも多分負けるくらいか。
そうすると猫股の長者はどの辺なんだろう。
小春が強くなるのを待っている、というのだから、
今時点では小春よりは強いのだろうけれど、
何やら業界の一部を仕切っている青鬼より上なんだろうか。
それとも単純な強さより性格的なものが問題なのか。
喜蔵たちが小春に思いを示し、
小春がそれに応えて覚悟を決めて、
意地を張り合うばかりだった今までよりは安心のはずだけれど、
明確に小春に敵意をもつ相手に対して一戦構えるには、
どうにもこちらの戦力が不安でならない。
半ば八つ当たり気味に多聞に視力奪われるし。
喜蔵は多分小春の目のことばかり考えているし。
つまりみんながみんな、それぞれのことを大事に思いすぎていて、
誰かが欠ける事態が怖いというだけの話なのだけれど。
ハラハラしながら読み進める。

凄まじい力と影響力を持ちながら、
そんなものに全く頓着せず動き回る、
子供のようなアマビエの無邪気さに救われた。

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