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2013.02.03 (Sun)

ひなこまち


ひなこまち
(2012/6/29)
畠中恵

どんな関係を築こうとも、
きっと最後まで共にはいられない。
それは人と妖でも、
人と人でも同じことだろう。

だから今は共にいよう。
花を惜しみ、炬燵を囲もう。
みなで。

【More・・・】

ゾウの時間 ネズミの時間」の話によれば、
生物が一生の間に使うエネルギー総量は同じで、
その使用密度が変わることで、
時間が圧縮されたり引き延ばされたりするらしい。
つまり寿命の長さは時間の濃度みたいなものを変える。
一太郎の周りにわらわらと集まる妖たちは、
通常の生物とは多分異なる仕組みで生きているから、
現の生物学の話をあてはめることはできないだろうけれど、
寿命の長さ、自分に残された時間の差は、
子どもと大人の間に何か物理的ではない視点の差があるように、
物事に対する姿勢のようなものを確かに変えるのかもしれない。
同じ長さの時間を生きることができないことは、
物語の中でも現実でも、さまざまな絆を苦しく軋ませて、
一太郎自身そういうものとなんとか折り合いを付けてきたけれど、
花見に湧き、同じ夢の中で惑い、
ささいなことでも一太郎の役に立てることを喜ぶ妖を見ていると、
過去がどうあれ、先がどうあれ、時間の密度など関係なく、
今同じ場所に存在しているということは、
それだけで同じ時間を生きているということに他ならないのだと思った。
視界に映る舞い散る花びらのその速さが各々違っても、
同じ木を見上げ、笑って騒ぐことはできる。
「めて」でも皆と花を囲めて本当に良かった。

ゆんでめて」「やなりいなり」と続けて、
わりと一太郎にとって苦い話が続いていたので、
今回は盗人の捕り物騒ぎあり、小町選びあり、花見あり、と
なんだか全編に渡ってお祭りのような雰囲気で、
相変わらずの病弱っぷりで咳き込みながらも、
一太郎が精神的に穏やか気でほっとした。
「ばくのふだ」での悪夢の情景があんななのからも察せられる通り、
一太郎が抱えている不安はなくなっていないし、
それこそ河童の妙薬でも使うでもして、
弱い体と生まれをどうにかしない限りなくなることはないだろうけど、
これが私の悪夢か、と笑えるくらいにはなっている。
自分が恐れているものは何なのか、それは一体何に由来するのか。
雛小町に関係する一連の事件自体に陰が少ないことよりも、
もしかしたら一太郎がそういうものをこなせ始めているからこそ、
一生を連れ添う相手、伴侶にまつわる話の中にあっても、
それほど揺れずにいられたのかもしれない、と思う。
どうやら夢として消えた「ゆんで」の記憶は、
ほんの少しずつ各々の中に残っているようで、
あの時のひどい喪失の感触が一太郎を変えているのだとしたら、
なかったことになった選択に意味が与えられるようで嬉しい。

当事者の都合や気持ちを無視して、
物事が思わぬ方向に動いてしまった場合、
それを修正できる手段があればいいけれど、
死人にはそれはどうやったって叶わないわけで、
ならば、生きているうちにちゃんとしておかなくては、と
船箪笥をめぐる親類内のいざこざを見ていて思った。
まあこの話の場合はちゃんとしておこうとしたものに、
生き人の方の都合が絡んでしまった形だし、
一商店の思惑で始まった雛小町選びが、
回り回って雛を求めたはずの大名家内の火種を熾したり、と
話合い気持ちを伝え合えるはずの者同士でもそんな様で、
亡くなった爺様だけを責めるわけにもいかない。
ただ回り回ってもう一回りして、
面倒な船箪笥が河童の妙薬を呼び寄せて、
大名家の火種と小町に選ばれる娘の不安を消したりもするので、
結局思惑だの謀だのは総じて思った通りにはいかないものか。
怖い兄やと妖たちにすまきされて川に放られるのも仕方ない。

基本的に兄やたち以外は人ならざる姿なので、
普段は人目につかないように陰から、
一太郎の手伝いをしている長崎屋の妖たちだけど、
人に化け、化けきれない部分は隠したりしつつ、
外を走ったり、捕り物したり、潜入捜査員になったり、
今回はあまり人目を憚らずに動いていることが多かった気がする。
兄やたちの心配で動けないというより、
実際に熱出したりして一太郎が行動不能なので、
そうせざるを得ない事情はあったにしろ、
これといった問題を起こさずに頼まれ事を遂行できるくらいに、
妖たちの方も一太郎を通して人の世に慣れてきたのかと思う。
でも、場久が起こした事件の原因を考えると、
妖が人の世の理屈をちゃんと理解することはなさそうなので、
単にどうしたら一太郎のためになるか、
ついでに菓子や酒にありつけるかを掴みつつあるだけかも。
何にしろ妖たちが一太郎の傍にいて、
何かとままならないか弱い人間のために手間を惜しまないのは、
あの離れが心地よい場所だからなんでしょう。
蜜柑やら餅やらをつまみつつ大きい炬燵を囲む人妖に参加したい。

大名の側室となれ大出世なのに、
そんなのいいから!と言わんばかりに、
我が道、我が恋を望む町娘たちが気持ちいい。

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