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2013.02.24 (Sun)

アナンシの血脈 上/下


アナンシの血脈 上
(2006/12)
ニール・ゲイマン

万能の神の力があったなら、
金も力も人の心も、
どんな人生だって望めるだろう。

神の息子が二人。
互いの人生を持ち寄って対峙する。


【More・・・】

家族の問題は永遠に解決しない、と
BUTTER!!!」で先生が言っていたけれど、
家族の問題が解決しないのは、
問題を家族という特殊な人間関係の中に閉じ込め、
相手を他人ではないと思うからなのではないかと思う。
人生の序盤から深く関わり合って、
そう簡単には繋がりを切ることができない。
その近い距離を健全に保ちたい、保たねばと思うから、
小さな軋轢、はるか昔の摩擦が、
波紋を大きくしながら、消えることなく問題になる。
相手を家族だと思わなければ、
水に流すか、関係を切る選択が容易にできるのに。
父親に対してうだうだとわだかまり続けるチャーリーが、
スパイダーに対しては割とはっきりと拒絶を示すのを見て、
神とかその息子とか関係なく、そんなことを考えた。
多分チャーリーにとってスパイダーは、
少なくともスパイダーの正体を知るまでは、
ただの迷惑な他人、人生を脅かす敵だったのだと思う。
逃避行や決闘を経て、ごく近い他者として認め合った先、
この二人が築くだろう関係に楽しみと心配が半々になった。
妻たちの立ち回り重要かもしれない。

めちゃくちゃにされた人生を取り戻すために、
チャーリーは世界の終わりあるいは始まりの場所で、
明らかに怪しい取引を鳥女と交わすわけだけれど、
チャーリーを何度も大西洋を往復させるその怒りが、
いまいち伝わってこなくて前半はもどかしかった。
何も知らなかったし、想像のしようもなかったのだから、
確かにスパイダーを呼んだことに関しての非はないにしても、
そもそもスパイダーはチャーリーのためにチャーリーになり、
チャーリーよりもよほど上手くその役をこなしたわけで、
居座ったことは責められるべきかもしれないけれど、
神の奇跡の力を使っていたとはいえ、
たった一日の成り代わりで乗っ取られてしまう人生なんて、
そこまで躍起になって取り返さなければいけないものには思えない。
仕事にしてもプライベートにしても、
見る限りチャーリー自身満足していたわけではないのだから。
スパイダーが上手くやってくれているなら、
それを好機として別の人生を始める方が、
本人にとっても周囲の人間にとってもよほど建設的だと思う。
ただ、人生を変えるために他人に成り代わる方法は、
長い目で見ればとても賢いやり方ではないことを、
兄弟のどちらもがなんとなく知っていたからなんでしょう。
グレアム・コーツはそれを分かっていなったから、人生を喰われた。
新しく始めるなら、古いものは自分で終わらせなくては。

スパイダーが担った魔法の力があれば、
チャーリーの灰色の半生は全く別のものなっただろうと思う。
でもそれは何もチャーリーの側だけの話ではなく、
片割れたる兄弟が持っていった何かがあれば、という仮定は、
スパイダーにも全く同様にあてはまる。
人の心も含めた何もかもを自由に動かすことが出来る万能さは、
まさに神のそれではあるけれども、
それでもスパイダーは一所に留まることができず、
楽しんだ後にはそこを去ることを繰り返し、
育み、積み重ねる幸福のようなものとは無縁だった。
もしもチャーリーの歌の力、
周囲に温かさを、自分に自信を与えてくれる力があれば、
スパイダーはそんな逃げ続けるような生活はしなかったと思う。
ならば二人が分かれることなく一人の人間だったなら、
神の息子は完璧な人生を送ったのか、と考えると、
チャーリーのみじめさやスパイダーの寂寥は感じずとも、
受け継いだ力そのものに押しつぶされてしまった気がする。
世界の終わりのあの場所ではなく、人として人の世で生きるのなら、
二人で分けるくらいで神の力はちょうど良かったのかもしれない。

あの人を愛していない、と認めたとき、
だから愛している人と一緒になる、とはならない辺りが、
母親に負けず劣らず偏っているロージーの美点で、
その頑なさと誠実さは素晴らしい美点だと思うけれども、
くだらないルールを守ることが秩序全体を支えていると信じ、
それを支えに警察組織に組み込まれながらも、
ワンナイトラブ的なことにはわりと寛容で、
その上いざ大きな正義が目の前で汚されたときには、
迷った挙げ句結局常識をかなぐり捨てるデイジーにより魅力を感じる。
女性の好みはチャーリーに近いらしい。
それはそうとアナンシの息子とタイガーの間の攻防は、
物語の、つまり世界の在り様を賭けた壮大なものだったけれど、
その表側、グレアム・コーツの事件を中心に考えると、
化け物じみた男に襲われてたり、幽霊に助けられたり、
目の前で人が消えたりということはあっても、
基本的には二人の女性が巻き込まれた事件は現実の範疇にあって、
ロージーがスパイダーを、デイジーがチャーリーを選んだことも、
彼女たちにとっては世界がどうなんて関係なく、
少しばかり非日常的な出来事の中での正気の判断なのだと思う。
チャーリーの力は息子に受け継がれはしても、
おそらく人一人が抱えきれる程度の力でしかない。
特別などではない意思によって神の力は人の世に溶けていく。
きっと神はそういうことを見越して墓で眠っている。全く小憎らしい。

被害者としか言い様がない死に方ではあったけれど、
幽霊になってからのメイヴは生前より生き生きしていて、
何もできないながら思いを遂げられて安心した。
待ちくたびれた旦那と仲良く谷を越えてくださいませ。

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