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2013.03.10 (Sun)

炎の蜃気楼39 神鳴りの戦場


炎の蜃気楼39 神鳴りの戦場
(2003/10/31)
桑原水菜

刻一刻と決着に向かう戦場は、
魔王の思惑通り、国全体に広がった。
生者も死者もその中にいる。

けれど記憶と意思をもつ存在である限り、
今立つその場で戦うことはできるのだ。
雷竜踊る宮で、高耶は一人ではない。


【More・・・】

霊魂が実在のものであり、
肉体の死が生の終わりでなくなった者にとっては、
自分が誰なのかという問いを応え得るのは、
体が借り物あるいは強奪物である以上、魂しかない。
闇戦国に参加している多くの死者は、
魂が告げる名と人生をもって我と名乗りを上げる。
信長の元へと内宮の嵐の中を共に歩む二人を見ていて、
高耶だけでなく譲も、多くの怨将たちがしているその名乗りを、
疑いなくすることができないのだと気づいた。
仰木高耶、上杉謙信の子としての景虎、
そして冥界上杉軍の元将である景虎の間で、
高耶が自己の在処に惑う様は、
今まで何度か話の焦点になってきたけれど、
長らく物語の外にいて、消息不明になっていた譲も、
上杉景勝、弥勒、成田譲、という一つの魂がもつ異なる名の間で、
高耶と同じように苦しんでいたのかもしれない。
兄弟としての繋がりを失い、与えられた立ち位置の間で反発しながら、
一高校生の頃の記憶を確かに共有する高耶と譲。
魂が告げる名とは、記憶の他にないのだと思う。

信長の換生で一気に局面が動いて、
呪法成就まで秒読み段階というところ。
あっちこっちで両陣営の怨将たちが競り合っているので、
誰がどちらの陣営かを追うだけで手一杯だったけれど、
よく考えると時代を超えた夢の対決が結構行われていて、
もっとじっくり描いてほしいくらいの豪華さだった。
状況が状況、呪法は成就しそうだし熊野は燃えているし、
富士山は噴火しそうだし、平清盛は怨念吐き出してるし、
とにかく信長を止めねば日本が、という状態なので、
とりあえず誰がどうなったかは把握できただけ良しとする。
前巻の状況ではこのまま織田が一気に押し切るかと思ったけれど、
どうやら座を奪われた神々以外にも、
日の本には魔王の野望を阻むセキュリティが存在したようで、
歴代斎宮や東昭権現が踏ん張ってくれなかったら、
たとえ直江の種を介した逆干渉や地上上杉軍の力があっても
景虎方の力だけではダメだっただろうなと思う。
信長の目指す世界に共感する者が死者の中に一定数いる一方で、
この国や生死の在り方を守ろうする者が、
結果的にしろ景虎に味方する形になったことが嬉しかった。
信長との戦、多分最後の戦がこの形で本当に良かったと思う。

高耶&譲(と直江・綾子)vs.信長の戦闘の行方次第で、
日本がどっちに転ぶかという状況ながら、
生者も死者もなく闇戦国に関わる者全員が、
今その場で自分ができることをしようとする様に、
本当にこれは最後の戦いなんだなあと感慨深かった。
襲い来る敵と戦う以外にも、
斎王を探したり、祝詞を唱えたり、一般人を避難させたり、
他人事ではなく自分のこととして戦っている。
長与が命を賭したように現代人もその中にいる。
皮肉な話、信長の企てによって現代人がその自覚をもったからこそ、
高耶は彼らの力をもう一度信じようと思えたのだと思う。
それから、各々の命を賭ける戦いの中で、
高耶を知る人が彼を想うのがとても印象的だった。
ここまで何度もぶつかり、決別したこともあったのに、
千秋も勝長も景虎の安否を思わずにはいられないし、
赤鯨衆だけでなく、各地で共に戦ったり繋がりをもった者たち、
哲也や隆也、長い付き合いの高坂から矢崎まで、
仰木高耶がどんな人間なのか、この状況ならどう戦うのか、
それを信じて、心配して、思ってくれている。
もうどうにもならないのは分かっているけれど、
直江のごとく、何か手はないのかと思ってしまう。

さて土壇場の直江の旦那と東昭権現殿の介入、
それからそれ自体災害レベルの弥勒パワーによって、
なんとか時間稼ぎだけはできたようで、
あちこちで頑張っている仲間のところへと、
いつかの思念体での別れの挨拶のようなことをする高耶が、
それが思念体や霊体ではなくほとんど本人なことが、
本当に魂の核が壊れかけている証しのようで苦しくなった。
影のない体で礼を言い、助力するのは、
嶺次郎や千秋が察している通りの意味なんだと思う。
そこまでは、高耶また一人で行ってしまうのか、と悲しくなったけれど、
直江を認めて、「一緒に」と高耶が言ったとき、
そうか、やっとそう言えるところまできたのか、と思った。
何を捨てても自分を生かそうとする相手、
そして一緒に死んでくれ言えば躊躇なくそうする相手に、
そう言うことの重さを高耶はやっと覚悟できた。
一緒に、と思う自分の心を認め、
そう言うことで直江に強いる痛みを受け入れることができた。
長い、本当に長い道のりだった。
信長との戦がどう決着するにしても、多分二人はこれで終わる。
見届けなければ、と思う。

龍おじさんこと氏康さんに続いて、
伊達の独眼竜まで龍に。
空は頼みましたにょろにょろ。


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