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2013.04.18 (Thu)

出生率0


出生率0
(1996/9)
大石圭

子供は多くのものを託される。
細胞には遺伝子を、
脳には入る限りの過去を、
人生には未来そのものを。

バトンが行き場を失ったとき、
最後まで手放さずに走りきれる者が、
一体どれほどいるのだろう。


【More・・・】

主観的な時間は生き方によって変えられるけれど、
人間の活動限界はやはり明確に定まっていて、
100年200年まして永遠の如く遠い未来なんてものには、
生物である限り多分届くことはない。
100年後の世界に何かを届けることができるとすれば、
自分が創り出した何かだけなのは明白で、
子供を作れようが作れまいが残せるものは確かにある。
にも関わらず、子供が生まれることがなくなった世界で、
こうも急激にあらゆるものが荒廃してしまったのは、
子供という大きな置き土産を失ったから、というだけではなく、
芸術であれ技術であれ、どんな生産的活動をしたところで、
それを見届ける者、それに意味を与える存在が、
100年後の世界にはいない、というそのことが、
拭えない虚無を生じさせてしまったからなのだと思う。
彼らが向かっているのは地球の終わりではなく、
人類という種の終わりでしかないのだけれど、
それはやはり世界の終わりと同義なのかもしれない。
終末の姿としては、トップレベルのエグさだった。

人類消滅へのカウントダウンが始まって七年、
世界人口が50億人を切ろうとする日の日本の一日が、
誕生日であったり、人権を失う日であったり、
その日に何かしらの個人的な意味をもつ幾人かを中心に語られる。
ジュンたち最後の世代がまだほんの七歳で、
たった七年、のような気もするけれど、
どうやらその間の社会の変容は激しかったようで、
奴隷市場が開かれるわ、発砲事件が日常茶飯事だわ、
何やら怪しげな精神高揚薬が出回ってるわ、
世紀末を超えた年代なのになんという世紀末感。
でも冷静に考えると、この時代はまだ良いんだと思う。
着実に減る一方とはいえ、
奴隷市場が成立するくらいには、まだ人間がいる。
食糧の生産だって、争う相手がいる程度には維持されている。
悪趣味としか思えないあの電光掲示板が、
どういうシステムで人口をカウントしているのか不明だけれど、
感傷云々以前に人口が7桁6桁の世界になったら、
多分そこからの減少は恐ろしく早い。
生活に必要なものを賄うのが難しくなるから。
絶望する彼らは多分それを嘆いていられる最後の世代なのだと思う。

人類の最後を看取る少年とそれ以外の三人は、
一様に人類の最後というものを意識しながらも、
そこに見ているものは異なっているように見えた。
終末は誰の心にも重くのしかかってはいるけれど、
ジュン以外の三人を苦しめているのは結局のところ、
終わっていく人類の中の1である自分の人生、
そのサイズから逃れられないことなのではないかと思った。
終末世界の一員であることをいくら気取ったところで、
ルルには地獄へ売られていく少女を救えなかったし、
ユウはシュウを忘れることができなかった。
コニーは多分心と体を切り離せずに苦しむことになる。
この先に何もないと分かっていても、
目の前の痛みや快楽、懊悩を無視することができず、
荒廃する社会の中で時にそれに消費され、
ときにそれに荷担しながら生きるしかないこと、
人類云々を離れた一個人としての無力感が、
立場の違う三人の中に同じように存在する気がした。
その感情はどんな時代でも多分何ら特別なものではない。
シュウのリボルバーのようなものを自分も持っている気がした。

一方、ジュンたち最後の子供たちは、
おそらく大人たちとは全く違う風に終末を見ている。
彼らにとってそれは突然突きつけられたものではなく、
空が灰色であることや、街のひどい臭いと同じように、
最初から当たり前に視界に入っていたものなのだと思う。
自分の人生の長さと世界の残り時間がほぼ同じ、という、
主観的には本当は誰にとってもそうであるはずの事柄が、
客観的にもそうである状態はかつて誰も経験したことがないもので、
一体その世界はどんな風に見えるのだろうと、
少しだけ子供たちの世代が羨ましくなったりもした。
大人たちがそれでも「家」を求めるのに対し、
ジュンは安心できる場所からどんどん離れていく。
子供に狂気じみた熱を向ける大人達の視線をくぐり、
恋にも至らない憧れのようなものを初めて知り、
目的地に辿り着いた時、自分の人生と世界の終点を見据える。
その瞬間ジュンはきっと世界の隅から隅まで全部を、
自分の視界に収めたのだろうと思う。
この先社会の秩序は急激に失われるだろうから、
ジュンが1を見ることはかなり難しいだろうけれど、
それでも大人たちのような虚無に囚われることはない気がする。
ジュン以外の最後の子供たちもそんな風であれるなら、
カウントダウンは5桁くらいから緩やかになるかもしれない。

約100年後に表れる、人だけがいない世界。
その想像の甘美さを思うと、
お猿さんの進化の話はやや蛇足なように思った。
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