2017年10月 / 09月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫11月

2013.06.23 (Sun)

NO.6 beyond


NO.6 beyond
(2012/11/22)
あさのあつこ

あの日までの日々と、
あの日からの日々が、
まだ見ぬ明日に繋がっている。

ネズミと紫苑の道が、
明るい場所に続くことを信じたい。


【More・・・】

魂なるものが三歳で完成するとしても、
当然ながら体はまだまだ大きくなる。
成長していく体の周りで、世界も変容する。
老いることも成長と同じ体の変化と考えるなら、
おそらく死ぬまで、人は変わり続ける。
同じ魂をもっているからと言って、
器と接する世界が変わっていく以上、
外側から見た人間、その立ち様が不変であるはずがない。
もちろんネズミはそんな意味で、紫苑にそう望んだわけではない。
ネズミが望んだのは紫苑という人間が、
自身の道標の一つとして在り続けることのはずで、
取り巻く世界が音を立てて変化する中でも、
紫苑がかつてと同じような愚直で美しい判断を、
寸分違わず行い続けられるなんてことも、
ネズミは信じていないだろうと思う。
けれど、銃口を向けられながらでも、
相手を排除すべき敵とは考えなかった少年が一年後にしたこと、
その言葉の温度が恐ろしくて、悲しくて、
はるか遠くを旅するもう一人の少年を呼びたくなった。
歩いて半年の距離、走って帰ってくれないか。

本編では描かれなかった過去の話とNO.6崩壊後の彼らの話、
状況的には明らかに前者の方が危機的で、
後者は良い方向に向かっていくはずなのに、
過去に温かさを、その後の話に不安を感じるのは、
このシリーズに対して「平和に暮らしました」なんてのを、
一瞬でも期待した私が間違っていた。
いや、NO.6崩壊から一年後の街は概ね平和だし、
様々な問題はあっても街にはエネルギーと希望が満ちている。
シオンは無事にすくすくと育っているし、
イヌカシや力河だって崩壊前よりずっとマシな生活をしている。
新しい街、新しい仕組みの下で、街は良くなる。
そういう予感が確かにするのだけれど、
自分の姿を見失いつつあるというような紫苑の不安と、
踏み出した一歩がネズミが帰る場所に繋がる気がしない。
紫苑はネズミの言葉に縛られてさえいるように見える。
再会の日に胸を張れるような街を作るために、
まだ十代の体で精一杯をこれからも続けて、
少なくともここから二年後、シオンが三歳になった時点では、
紫苑は笑っていたし、街も平和だった。そう見えた。
でも今回の話からすると、あの幸せな光景の下で、
きっと軋みが溜まっているのだと思う。街にも、紫苑自身にも。
たゆたえる者であったなら良かったのにと、思わずにはいられない。

「イヌカシの日々」ではイヌカシがネズミとの出会いを回想し、
「過去からの歌」ではネズミが憎悪の始まりを思い返している。
NO.6はまだ強固な壁で守られて君臨していて、
その外側では人が死ぬことが当たり前だった頃。
二人とも怒りと諦めのようなもので日々を生きていたはずなのに、
それが回想だからというだけでなく、
犬に育てられたイヌカシにも「恩人」がいたことが
おそらくシオンを見捨てられないイヌカシと無関係ではないこと、
あるいは憎悪に囚われたネズミの中に、
流れる者としての素養を見抜いた大人がいたこと、
歌うことがどれほどネズミの根幹に関わっているのかということ、
そういう、将来に繋がるような、憎悪とは別の下地の存在が、
とても温かくて、今現在の彼らを思えば、
その確かな地続き感に彼らの将来に対する不安が減る気がした。
火藍が言うように憎悪そのものは確かに新しいものの礎にはならない。
でも冷え切った理想郷の中に火藍自身のような温かな人々がいて、
沙布や紫苑のような子供が育ったように、
NO.6を憎悪した者たちがその瓦礫の上で共に生きる道を探るように、
何か一つのもので塗りつぶされていてもその下に、
将来に繋がる何かが息づいていることだってあるのだと思う。
芽生えたものが皆を守ってくれるよう願っている。

NO.6、自身の憎悪の大元から遠く離れて、
世界を旅するネズミは相変わらず物騒ながら、
かつて旅の楽士が指摘したように、
確かに元来が流れる者と思わされる瑞々しさだった。
たった6つの都市国家を残して不毛に帰した地球。
それがどれくらい前の話なのかは分からないけれど、
新しい生命、文明の息吹が感じられるくらい、
確実に世界はダメージから回復しようとしているらしい。
水の中の平和と変わらない弱肉強食を見ても、
回復の胎動を感じたり、NO.6の名を聞いただけでも、
別の道を選んだ紫苑に思いを馳せているのだから、
置いてきた過去だという言葉とは裏腹に、
ネズミは少しも紫苑を過去として扱えていないと思う。
半年歩けば辿り着く位置をすぐそこだと言うのは、
まだそれほどに紫苑を近くに感じているからだろうなどと考えたり、
NO.6に明らかに波乱を持ち込む男を、
紫苑のためにこの場で始末しようかと思う一方で、
それをしてくれるなという紫苑の言葉で思い止まるネズミや、
異なる空を見上げて互いを思い合う二人の姿を見ていると、
紫苑が強硬に引き留めるか、ネズミが紫苑を攫えば良かったのに、
なんてまあ野暮というか他意しかないことを思ったりした。
酔っ払い紫苑の一夜大変美味しいですありがとうございます。

ネズミの旅、紫苑とNO.6、父親の帰還、シオンの成長…。
まだまだ彼らのことを見ていたいので、
たまにで良いから書いてくださると大変嬉しい。

スポンサーサイト

テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌


15:13  |  あさのあつこ  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://acon6960.blog40.fc2.com/tb.php/514-c7621273

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |