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2013.07.04 (Thu)

きみのためにできること Peace of Mind


きみのためにできること
(1996/11/26)
村山由佳

美しいもの、希少なもの、
貴いもの、愛しいもの、etc.
世界には守るべきものが数多ある。

けれど残念ながら人の腕は、
わずか1m以下の長さなのだ。
掻き抱けるものは、限られている。


【More・・・】

人生でいちばん大事なこと」で、
少年は様々な人から多種多様な回答を得た。
ある人はそれは忍耐だと言い、ある人は優しさだと言い、
そんなものはないと知ることだと言った人もいる。
他人の回答を採用するにしろ自ら標語を作るにしろ、
どこかの時点で、自分の人生にとって何が大切なのか、
つまりは何が何に優先されるのかを決めろと、
大抵の人間は迫られることになるのだと思う。
選択というものが多数の選択肢の破棄を前提にしている常に違わず、
決して大事ではないわけではない何かを、
「一番」のもののために捨てねばならない。
その選択、切り捨てる痛みを厭い続けていたりしたら、
おそらくは代わりに何かを失うことになる。
それは必死に腕の中に閉じ込めたそれそのものかもしれない。
だから、本当に守りたいのなら、
捨てる痛みを恐れている場合ではないのだ。
端的に言おう。
この優柔不断身勝手野郎が、見捨てられない幸運を自覚しやがれ。

夢を持って努力している最中の男と、
家族と仕事を守りながら、そんな男を待ち続ける女。
しち面倒くさいジェンダー論を持ち出す気はないけれど、
俊の夢や揺らぎ、不安なんかをとても身近に感じる一方で、
それはそれとしてピノコの肩を持ちたくなってしまうことには、
おそらくピノコが女であることが無関係ではない。
それは二人の性別を反転させてみると誤魔化しようがなくなる。
夢を追う女の子と、気持ちを押し殺しながらそれをいい子にして待つ男、ならば、
男が与えてくれる安穏とした居場所で過ごすことよりも
身心ともに消耗しながら崖を上ることを選ぶ女の子の方を応援したいし、
寂しさや不安をぶつけることもせずに、
勝手に我慢を重ねて自分の首を絞めているような男は殴りたくなる。
もちろんいずれの場合にしろ、
関係のこじれは片方だけに非があるわけではない。
俊はピノコが自分にとって何なのかをもっと早く考え尽くすべきだったし、
ピノコはさっさと「いい子」なんかやめてしまうべきだった。
それでもこのカップルのこの度のいざこざの原因は何かと問うなら、
一方的にピノコの肩を持ちたくなるくらいにピノコちゃんまじいい子。

人気女優で、年上の女で、
凜とした態度の裏に脆く不安定な部分をもつ女。
などと書くと、二十歳そこそこの青年に、
くらりとくるなという方が無理という気がする。
西沢さん辺りからすると、
そこに何がしかの計算が透けて、「魔性」という風になるのだろうし、
曜子が全くの無邪気に俊に接しているとも思わないけれど、
彼女にあるのは計算ではなく、
ただの狡い期待のようなものなのだろうと思う。
自分が人からどう見えるのかを知った上で、
あの態度を取っているという意味での狡さだけでなく、
こうさせようというほど積極性なしに、
こうなればいいのに、という期待をちらつかせる狡さもある。
キジマを求める理由も、相手にではなく自分に寄っていて、
曜子は弱くて狡くて、子供のようだと思う。
そんな曜子に何かしてやりたいと思う者は二人以外にもきっといる。
でもたとえそれが建前でも、相手のためにと言えないなら、
そこから抜け出すことは出来ないのだと思うよ曜子さん。

誰を愛するかに本来的な制限が存在しないのなら、
その相手が一人でいけないというのも一つの規範でしかない。
それが恋愛だろうがそれ以外の名で呼ばれる感情だろうが、
異なる人間を同じように愛することはできないと思ってしまうけれども、
そう在れる人間もいるのかもしれない。
ただ、俊は並べられることを嫌がるだろうけれど、
キジマも俊も、二人の女性を同じように愛しているわけではないと思う。
メールでのそれぞれとのやり取りの中で語っているように、
俊にとってピノコと曜子が占めている場所は明らかに違うし、
多分、多くは語らないキジマにとっても、
妻と曜子は異なるやり方で愛おしむべき相手なのだと思う。
そういう愛があって、それ自体は咎められることではないのは分かる。
ただそういう在り方をすることで、
愛している相手が傷つくのなら、それを理解するのなら、
在り方がどうのなんてのは身勝手な話だとしか思えない。
傷つけないために嘘を重ねることが優しさ、
あるいは誠実さなんてものだと思っているのなら、勘違いも甚だしい。
たとえ決して破綻しない嘘をつけるとしても、
曜子のように嘘の中にあること自体に首を絞められることもある。
なんて、公明正大清廉潔白な人間でもないけれども、
怒りを爆発させもせずにただ傷ついていく彼女たちのために、
阿呆な男たちに拳を入れたくなった。

キジマに憧れてその世界に入って、
現実の人間を目の当たりにしながらも、
夢それ自体の色を褪せさせない俊の情熱だけは、
ピノコちゃんの相手として見るべきところかもしれない。

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