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2013.07.19 (Fri)

ひばりの朝2


ひばりの朝2
(2013/7/8)
ヤマシタトモコ

ひばりを知る人は多くいて、
噂も彼女を語っている。

けれど誰の焦点も、
彼女の上には結ばれない。
誰も彼女を追いかけない。


【More・・・】

他人が抱えている問題のどこまで踏み込むのか。
それ自体がとても難しい問題だけれど、
それは家族とか友人とかの枠組みではなく、
個人と個人の関係を基礎に、
問題の性質も考慮した上で答えを出すべきことなのだと思う。
多分どうすべきかに統一された答えはないし、
すべきことをしても最悪の展開になることもある。
ひばりという女の子が抱えている問題、
本来は彼女自身の問題ではなく、
その周囲に勝手に撒き散らされた問題であるそれは、
結局誰にも触れることさえできなかった。
ひばりは苦しみ、傷つき、抵抗も意味をなさず、
ただ削られながら成長していった。
憲人がはき捨てる通り陳腐な物言いではあるけれど、
彼女は悪くなかった。全く悪くない。
なのに、なんでこんな、と言いたくなる。
そう言うことしかできないような傷を
誰もが抱えて生きているなんてことさえ彼女には言えない。
約1500回の夜から遠い場所で彼女が生きられればいいと思う。

1巻がひばりという少女に色々な人が目を向ける話だとすれば、
最終巻でもある今巻ははなはだ残念だけれども、
彼らがひばりから目をそらす話なのだと思う。
あるいは、見えないまま終わっていく話。
端から全く見えていない完はお話にならないとして、
憲人も富子も、辻先生も相川も、
ひばりの容姿の下のただの女子中学生な部分に、
何かしらの形で気づいていたのに、彼女を「救」いはしなかった。
出来なかったのではなく、
自分の問題を捉える過程の一部として、
結局はひばりを利用したに過ぎない。
だから当然の帰結として、その問題がどこかの到達点が見つかれば、
富子ちゃんがあんな風に簡単にひばりに声をかけたように、
相川が別の女の子の告白を受け入れるように、
「ひばり」や「手島」は終わった存在として片付けてしまう。
それは、他人の存在を終わらせるその構造は、
実際は他人の現実に全く即していないけれども、
ごく普通に、大して意識されることもなく行われていることなのだと思う。
私の中にもそうやって終わらせた他人が意識の外に並んでいるし、
私自身も、誰かにとってはすでに「終わった」人間なんでしょう。
終わりなどそう簡単に訪れてはくれないというのに。

富子、辻先生、美知花たち女性陣と相川くんは、
ひばりを通して何かを納得してしまったのだと思う。
諦めたと言い換えてもいいかもしれない。
生徒たちが抱いている言葉の裏の希望を指して、
辻先生が抱く可哀想に近い感想は、
もしも自分が中高生の子供だったなら、
多分怒り軽蔑しただろう述懐なのだけれど、
生徒に関心がないと言いながら、
さすがは先生という感じの指摘だと思った。
美知花の他人を二つに分けて嗤う悪趣味も、
「敵」とは別の存在として「味方」があることも、
子供が世界に望む美しいもの正しいものの一部なんだと思う。
美知花のような皮肉屋であってもそうなのだから、
屋上で泣きじゃくったあの子のような子なら一層、
よく言えば悪意なく純粋に、
悪く言えば無知に無闇に、世界を二分して、
汚いものとされたもの、悪いとされたもののが、
それ以外のものであることなど思いもせず信じている。
だからこそ子供は愚かだと言われながら、尊ばれもする。
美知花はもうそこから外れてしまったのだと思う。

実際には何の助けにもならなかったけれども、
相川くんだけが、何かをしようという意思を示した。
憲人が陳腐な台詞しか吐けなかったことや、
完が何も分からないまま傷を抉ったことに比べれば、
ひばりに一番何かしてやれたのは彼だと思う。
父親のことや学校でのこと、
それから彼女を削った多くの言葉や視線を、
多分彼女は忘れることができないと思う。
それをどこにしまうのかは分からないけれど、
抱えたまま生きていくことになる。
でもひばりは相川が言ったこと、
出来ないと知りながらでも、助けたいと思ってくれたことを、
忘れたくないと思ったのだと思う。
息を止めて、耳を塞いだ彼女が窒息しなかった一端に、
相川の幼い言葉や行動があるのなら、
自身を殺そうとした場所の思い出の中に、
わずかでも美しいものの影が残ったなら、嬉しい。

富子が完に残した呪いは、
きっとあの日の後でさえ発動しない。
この男は永遠に人の善性を無責任に信じ続ける。
下腹を無言で殴りつけてやりたい。

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テーマ : 漫画 - ジャンル : アニメ・コミック


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