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2013.09.08 (Sun)

妖怪アパートの幽雅な日常⑧


妖怪アパートの幽雅な日常8
(2013/1/7)
香月日輪

心も身体もその能力もそして機会も、
平等に持つわけではないから、
強い者もいれば、弱い者もいる。

力に驕らず、弱さに寄りかからず、
前を向く少年の言葉が突き刺さる。


【More・・・】

不運にもめげず、痛む心と体に力を込めて前を見据え、
同情するな、と格好良い登場人物たちは言う。
それは侮辱だという風に食ってかかる。
その姿それ自体はとても憧れるもので、
強くはなくても、強くあろうとする心は美しいし、
意思を失わないことが何より尊いことも分かる。
分かるからこそ、そうばかりはあれない身には、
アパートの住人たちの言葉があまりに痛い。
同情は確かに侮辱になることもあるけれど、
それを必要とする者には甘い言葉になる。
心を耕してくれるような言葉と同じように、
その反転は受け取る者次第で如何ようにもなるのだと思う。
青木先生に傾倒する彼女たちは弱くて怠惰で、
幼さを含めても見るに堪えないものではあるし、
青木先生が高所から理想を語るばかりで、
実体が乏しいことは確かなのだけれど、
意思をもち、心を開き、遠くを見て、足元を固めろという言葉も、
一つの理想の上に立つ場所からやってくるものな気がした。
夕士や千晶の言葉は、そのままでは多分彼女たちには永遠に届かない。
彼女たちが自分の姿に気付くときまで、
匿ってくれる場所として青木先生は有能なのだと思う。

進学することを決めた夕士の日々は勉強尽くしだけれど、
そこでの勉強が生活には役に立たないことだと自覚していて、
その上で役に立たないことによって、
自分を豊かにできる贅沢を噛みしめる辺り流石の夕士で少し笑った。
大学を目指す高校三年生でそう思っているのは、ごく一部でしょう。
「勉強」が実体を持って役に立つと思っているのもいれば、
役に立たないから意味がないと思っているのもいるし、
けれどやらねば大学へ入れないからやるというのが大半だろうと、
当時の自分を振り返って考えて思う。
「勉強」を直接的に使う職業もなくはないし、
結果としての学歴やなんかも一定度の価値があるけれど、
確かに基本的には受験用のお勉強の内容には、実践が薄い。
でも、決して無意味なものではないと、なかったと思う。
受験勉強は目的のために積み重ねる訓練としてとても優秀で、
たとえ失敗しても、積み重ねた経験は自信になる。
夕士のバイト先の社長が言っているように、
教養というやつは一朝一夕で身につくものではないから、
それが許されるうちに付けておいて損はない。
その意味で、学生である時間を長く持てることは、
本当に贅沢で、幸運なことなのだと思う。
夕士ならどんな分野でも実践に繋げてしまいそうだけれど、
人文学部民俗学専攻の稲葉青年、大変楽しみである。

夕士の煽りがあまりにも絶望的な雰囲気だったので、
誰か死んだりするのではないかとヒヤヒヤしたけれど、
千晶&夕士と、勇敢な姦し娘たちの頑張りで、
なんとか全員で状況を打破できて安心した。
もはや驚きもしない謎の経験をもつ千晶と、
望んだものではないにしろ異能をもつ夕士はまだしも、
今回は田代始め女子高生たちが本当に頑張ったと思う。
恐怖や動揺を必死に押し殺した桜庭も、
女子とはいえ背負って走った垣内も、
夕士に嫌なフラグ立てはしたけれどもちろん田代も、
ジョシコーセーなんてもの蹴倒す勢いで拍手ものだった。
一方であの状況なら黒田さんたちのような反応が普通だろうとも思う。
ヤマダの残酷な問いに頷けなかっただけ、
香川さんはちゃんと育っていたのだろうし、
まともな感覚を持っていたからこそ、
事件の後、彼女は自分のしたことや弱さに苦しんで、
日常に回帰することができなかったのだと思う。
条東には戻って来られなかったようだけれど、
彼女が暗い場所に沈みこまずに、いつか自分を許せる時が来て欲しい。

相手との関係を大切に思っているからこそ、
拒否されるかもしれない秘密を明かすことは恐ろしい。
同時に、話せない自分を、迷う自分を見限りたくもなる。
そんな気持ちがよく分かるから、
プチを使うことに踏み切れない夕士の逡巡が辛かった。
でも、病室での千晶との会話を聞いていて、
夕士の迷いの核は秘密がどうのというよりも、
力を使える自分に自動的に課される責任の方だったのだと思う。
尋常ならざる力で何かを救えると考えることが、
驕り以外の何ものでもないことは多分夕士は分かっている。
ただ、それとは全く別に、
力を持っていることによって使うか否かの選択肢が生まれること、
つまりは、使った場合の責任と同時に、
使わないことを選んだ場合にも引き受けねばならないものがあることを、
命がかかった場面で選択を迫られて、夕士は初めて認識したのだと思う。
それは他者に押しつけられるのではなく、
夕士の中に、後悔や自責の念の形で現れる。
異能に限らず、他人にはない技術をもつ人は、
それが稀な力であればあるほど、夕士と同じように迷うのかもしれない。
できることをするというのは指針は単純明快だけれど、
実践するには相当の覚悟が必要になる。
秘密もなくなったことだし、夕士は千晶を大いに頼ればいいと思う。
そういう大人を、夕士はもっと見つけていけばいい。

夕士と千晶の二人の並びにきゃーきゃー言う女子が、
なんだか着実に増えている気がする。
二人ともサービス精神旺盛で善きかな善きかな。

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